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色彩繚乱

今日が休みならば亜樹とゆっくり過ごせたのだが、仕事を放棄するわけにもいかず身支度を整え学園に向かい職員室のドアを開けた瞬間、溝口と鉢合わせた。

「九重先生、おはようございます。」

朝一でコイツの面は見たくなかった。

「私に会ったのがお気に召さないですか?」

顔には出さないようポーかフェイスを装っていたにも関わらず悟られるとは…

「そう思うなら声を掛けないでもらおう。では。」

「あ、九重先生、お待ちください。」

「まだ何か?」

一瞥すると「響くんの退院はいつ頃なのかと思いまして。」と薄ら笑いを浮かべる。恭弥のことを尋ねる溝口に俺は一抹の不安を感じた。恭弥に何かするつもりなのか?

「ご自分で調べたらどうです?お得意でしょう?」

シニカルな笑いと冷ややかな眼差しを投げつけたが溝口は笑顔で返した。

「生徒達が心配してるんですよ。彼は学園の人気者ですから。」

恭弥の性格で生徒に慕われるわけがない。月葦は男子校。女以上に端正な容姿を持ち色香を漂わせる恭弥に周囲の視線が集中しているにすぎない。

「彼に手出しするな。すればただでは済まさない。」

コイツに威嚇は通用しなくとも黙っていられるか。

「誤解しないでください。私はアナタとコミュニケーションを取りたいだけで下心はありせん。」

眼鏡の奥の瞳はそうは言っていないように見えるのはコイツを信用していないからだ。

「言っておくが対話するつもりもなれ合うつもりも毛頭ない。」

言い放つと溝口に背を向けた。

「そうですか。残念です。でもいずれ時が来れば嫌でも私達と語り合うことになりますよ。」

私達だと?どういう意味だ?

振り向いて問い質そうとしたが溝口の姿はなく廊下に目をやると後ろ姿が見えたが引き止めるのはプライドが許さず拳を握り締めた。

悪い予感がする。一刻も早く結界を解かなければ…。

「九重先生?」

不意に肩を叩かれ振り返ると学年主任の鈴木がいた。丁度良い。探す手間が省けた。

「鈴木先生、おはようございます。」

「おはようございます。初日はどうでしたか?不都合や不便なことはないですか?」

前日の報告をする義務があるとはいえ面倒くさい。

「引き継ぎや申し送りはファイルにありましたし特に問題はありませんでした。」

「もし何かあれば遠慮なく言ってください。」

「ではお言葉に甘えて。甥の宇佐木亜樹のことでご相談が…」

「どうしました?」

「環境の変化で持病が再発してしまい治まるまで授業は控えても宜しいでしょうか?その分の遅れは私が教えます。」

「持病とは?」

「ストレスからくる身体機能の低下…胃痛や頭痛、倦怠感など心因性のものです。」

「ふむ。解りました。溝口先生には私から伝えておきましょう。」

「ありがとうございます。ではこれで失礼します。」

一礼して保健室に向かった。溝口が小細工しなければこの学園の教師でなかったらと思わずにはいられない。

「忌々しい奴。」

保健室のドアを開け上着をハンガーに掛け白衣を身に付けた。それからこれといってやることもなくコウとソウの様子を伺う為に意識を傾けた。

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あきゅろす。
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