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色彩繚乱
15
食後は案内された部屋に入った。俺とサイ同じ部屋。コウとソウは別々。かなり酒を呑んだのに全く酔ってないサイは不機嫌で話しかけても生返事ばかり。でもハクヤの顔を見ると途端に頬を緩ませた。ちよっと妬けるなぁ…なんて。

今夜の部屋は目覚めた時の部屋と違ってちょうど良い広さで壁に絵が飾ってあるだけの至ってシンプル。豪華なのはキングサイズの天蓋付きベットのみ。室内を照らす温かみのあるオレンジ色の灯りがスタンドランプの中で揺らめいている。電灯では感じられない癒しがあるのは精霊の炎だからだ。気まずい空気の中での晩餐会だったからこの部屋は落ち着く。

「ふぅ…」

スーツを脱ぎベットの上に置かれた寝間着に着替えたけれどハクヤがサイの指をしゃぶるからシャツのボタンを外した。

「ハクヤ、おいで。」

両手を前に出すとハクヤは俺の胸に顔を埋めた。たはっ〜、可愛い。ぷにぷにほっぺ、やーらかいぃ〜。手、ちっさっ!

「よし、よし、お腹が空いたんだな。」

ハクヤの小さな背中をさすりながら横になった。すると背後からサイに抱き締められサンドイッチ状態。

これじゃ寝返りも打てないよ。抱き枕じゃないし。それに…

「ドキドキして眠れないじゃないか。」

「……」

返事がないってことはもぅ、寝ちゃったんだ。サイも疲れてたのかな。

「ハクヤも寝ちゃったし。」

スヤスヤ眠るハクヤを仰向けに寝かせサイの方に身体を向けた。

「あぁ…せっかく用意してくれた寝間着を着ないで真っ裸で寝るなんて物臭だな。」

サイの腕をソッと離して起き上がり上掛けを素肌に掛けた。

「ぅう…っ…」

呻き声に顔を近づけると悪夢を見ているのか眉間に皺を寄せ苦しげな面持ち。精霊王がくどくどネチネチ、サイを責め胸の傷を抉ったせいだ。

可哀想なサイ。夢の中でも苦しんでる。

片目を覆う前髪を指で払いサイの額に手を当て『悪夢よ、去れ』と念じた。気休めでもゆっくり眠らせてあげたかった。苦しめるものを取り除いてあげたかった。

「大丈夫だよ。眠りから覚めた龍人がサイを非難しても俺達が居るから安心して…」

俺の想いが通じたのか穏やかな顔付きになった。

「…良かった。」

フランの浄化装置が正常に機能したあと眠りから覚ます予定だから暴動や反乱は起きないと思うけど、万が一、そうなったら…

『その時は全民の記憶を書き換えれば良い。龍国の秩序を守るのが我らの成すべき事だ。』

出し抜けに黒曜石が俺の思考に割り込んできた。
記憶を書き換えるって簡単に言うけど、それって個々の意志を蔑ろにしてるってことじゃないか。

『物事を安易に解決しちゃあダメだろ。』

『何故?』

何故って…

『過ちから学ぶこともあるんだ。サイだって自分の弱さを受け入れ己と向き合うことが出来た。恭弥の記憶を消したからサイの記憶も消えたけど恭弥の記憶があってもサイなら乗り越えられる。』

『龍国の民もか?』

問われて言葉に詰まった。全員がサイみたいに強くなれるわけじゃないし問題は発生すると思う。だけど…

『人は考え模索しながら経験を積み重ね成長するんだ。皆で協力すれば話し合えば努力すれば問題を解決することが出来ると俺は信じてる。』

『理想論の夢物語だな。しかし全否定はしない。私はお前でもあるからな。人がどれほどのものか見定めるのも一興。まぁ、期待はしていないがな。』

それっきり黒曜石は沈黙した。

「理想論…夢物語…。」

そう言われても仕方ない。人間界だって争いは絶えないし戦争はなくならない。だけどやる前に諦めてたら何も変わらない。変えたいなら自分が変わるしかないんだ。長く険しい道のりでもその先に希望はあると信じて。

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