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色彩繚乱
12
戒めとしてサイの記憶に未来永劫、忘却することなく刻込まれた闇龍石。自己顕示欲の塊だった彼は消滅したけれど本懐を遂げた。でも恭弥は存在すらしていない。俺がサイに恭弥のことを話せばサイの記憶に恭弥が残る。だけどそれでまたサイが苦悩するのは見たくない。だったら言わない方が良いんだ。ハクヤのことも…

「アキ…」

不意に俺の腕を掴んだ。

「俺に失望したか?」

俺が黙ってたからそう思ったんだろう。揺れる片目は不安と恐れが色濃く頼りなさげ。こんなのサイらしくない。

「何、気弱になってんだよ?傲慢で傍若無人が専売特許だろ?」

発破を掛けると苦笑した。そこは悪態を付くか言い負かして欲しいんだけど。

「俺に嫌われたと思ってる?」

「思ってないと言いたいところだが…自信がない。」

情けない顔して自信がないって…ったく、仕様がないなぁ。

サイの背中に腕を回してギュッと抱き締めた。

「俺のことが好きすぎるからって彩龍王ともあろう者が腑抜けたこと言うなよ。万一、サイが同じ過ちを繰り返すようなことをしたら俺がぶん殴って改心させてやるから心配すんな。俺を信じろ。」

言葉に想いを込めた。サイに伝わるように…何時もの…記憶が戻る前の俺様なサイが好きなんだ。

「随分と口が達者になったものだ。」

おっ、調子、戻ってきたじゃん♪

「俺はサイの相棒だからな。不甲斐ない相方を叱咤する権利があるんだ。」

「相棒じゃない。他に言い方があるだろう?何て言うんだ?言ってみろ。」

「こ、恋人…とか?」

わ〜、ハズっ!!

「違う。」

「え、違うの!?」

思わず顔を上げると俺の手を取って手の甲に口付けした。

「お前は俺の妻だ。」

「つ、妻!?結婚もしてないのに?」

「ならばプロポーズしてやろう。」

「風呂場でプロポーズ!?ムードなさすぎだろ。」

「ムードを気にするとは意外とロマンチストだな。」

口の端を上げ片目を細めた。意外で悪かったな。

「ま、まぁ、別に良いけどさ。誓いの言葉ぐらい言ってよ。」

「結婚式は上げなくて良いのか?」

俺にウエディングドレス着させるつもりかよ!?

「い、要らない、しなくて良い。俺、派手なの苦手だし家族写真で十分。」

「そうか、解った。では…いや、よそう。此処で誓うのも味気ない。とりあえず、出るぞ。」

拍子抜けしたけど一生に一度のことだから…

「うん。」

湯船から出ると髪が皮膚に張り付いて気持ち悪かった。サイは記憶が戻っても髪も片目も元に戻らなかった。髪はいいとしても…

「サイ、目はそのままで良いのか?不便じゃない?」

黒曜石に頼めば再生可能だし。

「必要ない。お前が俺の片目だ。故に片時も離れるな。解ったか?」

以前のサイに戻ったみたいで嬉しくなり「おぅ、サイも離れんなよ?」と笑って拳を前に突き出したら呆れ顔をしつつも拳を合わせてくれた。

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