色彩繚乱
11
水の流れる音がする。耳に心地良くてゆらゆら揺れて身体がぽかぽかする。
あれ?俺は何処にいるんだ?
重い瞼を開けたら湯気が立ち込めていた。
「此処って…」
目を凝らすとスーパー銭湯並みにデカくてゴージャスな造り。前方にはライオンを象った像が鎮座していて口からお湯を吐いている。無駄に凝ってるなぁ。
「起きたか?」
背後でサイの声がして振り返ったらチュッとキスされた。俺、気絶したんだっけ。
「身体は?」
「あ、うん、大丈夫。お風呂に入れてくれたんだ。」
サイと向かい合わせになろうと凭れていた上体を起こした。
「ああ、シーツを替えないと、おちおち寝ていられないからな。」
シーツ…はっ!!
「あ、あれは…オシッコじゃなくて…」
恥ずかしさにサイと向き合うことが出来なくなりそのまま湯船に身体を沈めた。
「潮だろ。」
「潮?」
俺、クジラじゃないんだけど…
「絶頂が持続すると男女共に分泌される液体、俗に言う潮を吹くだ。個人差はあるがお前は感度が良い。」
「へぇ…そうなんだ。」
知らなかった。でも変な病気とかじゃなくて良かった。
「此処からも出ると良いんだが…」
不意に胸を揉まれてギョッとした。
「ち、ちよっ、揉んでも出ないって…俺、女じゃ…」
ふと愛李栖の面影が脳裏を過ぎった。鏡の中のサイと愛李栖は仲むつまじく子供の誕生を心待ちにしてた。もしサイが俺と愛李栖を重ねて見てるんだったら…
「…俺は愛李栖じゃあないからサイの期待には応えられないよ。」
自分で言って凹むなよ、俺。
「お前も記憶を…」
「黒曜石に見せてもらった。」
「愛李栖のこと気にしてるのか?」
ズバッと聞くなよ、気まずいだろ。
「…気にしてなんか…」
なくはない。豊かな乳房と丸みを帯びた体躯。それはどんなに望んでも手に入らない…いや、違う。俺は女になりないわけじゃない。俺自身を見て欲しいんだ。
「…ごめん。」
サイの手を逃れ距離を取った。揉まれても出ないものは出ないし、そうされると愛李栖と比べられそうで益々、落ち込むから。
「俺は愛李栖を忘れることはできない。再び、忘却すれば大きな過ちを犯した罪さえ無かったことにしてしまう。」
まずいな。話が暗い方向に行きそう。話を変えなきゃ。
取った距離を縮めサイの正面に腰を下ろした。
「サイ、その話はもぅ、止めよう?サイは十分、苦しんだし闇は浄化したし。」
誰だって大切な人を失ったら悲しみのあまり我を見失ってしまう。
「闇…俺が生み出した闇龍石も忘れはしない。俺が忘れたからアイツは己の存在を知らしめる為に俺達の前に姿を現した。だが、今思えばそれで良かったのかもしれない。忘れていなければアイツは覚醒前のハクを唯一の天敵を消し去っただろう。黒曜石といえど闇は白龍石にしか浄化出来ない。闇龍石が人間界を闇に落とすより俺達を優先したから溝口は傍観者に徹した。」
サイの言葉に腑に落ちなかった点が明確になった。フランでも闇龍石と溝口相手じゃ全く歯が立たなかっただろう。
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