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色彩繚乱
15
棺の前で泣き明かした翌日。慰霊の鐘が鳴り響く中、葬儀は厳かに行われた。愛李栖の死に民達は嘆き惜しみレクイエムを歌う。彼女は愛されていたのだ。それに比べ平民上がりの后妃と罵っていた輩は清々した顔で宮中を闊歩する。

あれは本当に不慮の事故だったのか?この中の誰かが画策したのではないか?俺を狙ったのは常人より反射神経が良い愛李栖なら俺の盾になると見越して矢を放ったのではないか?

考えれば考えるほど疑念は募りコウに調査を命じた。その後、ソウと共に母親の家に向かい深々と頭を下げた。

「俺が到らぬばかりに…申し訳ない。許してくれ。」

「僕からも…ごめんなさい。」

病気に侵され頼りの娘を失い嘸かし落胆しているだろうと気に病んでいたが母親は「どうか頭を上げてください。嫁を嫁がせた時、覚悟はしてました。恨んでもいません。娘は言いました。幸せだと。だから後悔はしていません。」と毅然たる態度で言い切った。愛李栖の性格は母親譲りだったのか。

「王さま、母の面倒は俺がみますのでご心配なく。わざわざお越し頂きありがとうございました。」

幼さの残る弟は必死に涙を堪えつつも気丈に振る舞っていた。父親は依然、修行の旅に出て会えなかったが、恐らく立派な武人なのだろう。子は親を見て育つという。俺も我が子をこの手に抱きたかった。成長を見守りたかった。剣術や武術を教えたかった。そう思うと居たたまれず早々に実家を後にした。

「彩王には僕らが居るからね。」

俺を気遣い微笑むソウの瞳は涙で充血していた。自分自身に慰められる虚しさに苦笑いした。龍国存続の為のみに存在する俺達。輪廻の輪からはみ出すことさえ叶わない宿命。幾度となく転生を繰り返しては若返る肉体。それに反して心は老いる一方だった。興味は薄れ新鮮味は色褪せ感覚は鈍り感情は渇いた。

国に捧げるだけの人生。終わりのない道程。

これからもこの先も変わらないだろうと思っていた。だが愛李栖は俺に生きる喜びを与えてくれた。愛を教えてくれた。

「愛李栖…」

お前の居ない世界で俺は何を糧に生きていけば良いんだろう。



「彩王、調査報告をお持ちしました。」

コウから受け取った書類に目を通したが不審な点は見つからず猟師の過失及び偶然の事故だった。

「隈無く調査したのか?」

愚問だろうと思いながら尋ねた。

「はい。猟師を厳しく尋問しました。事が事だけに自白剤も使用しました。交友関係ならびに家族構成も徹底的に調べました。ですが黒幕はいませんでした。猟師には暗示を掛け狩りが出来ないようにしました。」

流石は我が右腕。そつがない。

「彩王、これで終わりにして頂けませんか?これ以上、感傷的になれば龍石にも支障をきたします。御身は龍国の王。国の秩序を乱してはなりません。」

国、国…二言目には国を出す。夢も希望もない国がそんなに大事なのか?感情を押し殺し想いに終止符をつけろと言う。胸に空いた穴、心を占める虚無感。砂を噛むようなな味気ない毎日。こうなった原因は猟師。猟師が悪い…

「…違う。」

俺が愛李栖を后妃にしなければ命を落とさずに済んだのではないか?俺が散策に連れ出さなければ生きていたのではないか?俺が矢に気付いていれば…

「あぁ…そうか。」

悪いのは俺だ。俺のせいで愛李栖と子は死んだのだ。

「…全ての原因は俺だったのか。」

皮肉にも行き着いた先は自分自身だった。

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あきゅろす。
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