[携帯モード] [URL送信]

色彩繚乱
13
特に左大臣派が異論を唱えたが俺は一蹴した。愛李栖が平民だからといって俺の血を受け継ぐ子。恐らく龍力も使えるだろう。資格は十二分にある。代々、左大臣を勤めた家系といえど禄に仕事をしない無能な奴に兎や角く言われるのは胸くそ悪い。

「彩王、左大臣派ですが、彼らの動向が気になります。ご注意してください。」

表情を固くするコウの肩に手を置いた。

「危惧するな。左大臣とて馬鹿ではない。俺に刃向かうとどうなるか解っている。それに刺客になりそうな輩は全てお前が記憶を書き換え善人にしただろう?毒薬の入手経路は全て断った。派閥や女官にも釘を刺した。常に先手は打っている。」

「ですが嫌な予感は拭えません。」

ここまでしているんだ。案じることはないだろうに。ったく気苦労が尽きぬ奴だ。

「安心しろ。俺が片時も側を離れず周囲に目を配っておけば向こうも手出し出来まい。」

「だと良いんですが…愛李栖の身に何かあれば…と思うと気が気じゃないんです。」

コウも愛李栖を大切に思っている。ソウは姉のように慕っている。無論、ハクもだが2人より遥かに想いは強い。初対面で愛李栖はハクを抱き締めた。不憫に思ったのだろう。それからは度々、地下にあるハクの部屋を訪れては話し相手をしていた。

『愛李栖、優しい。純粋。僕、大好き。』

闇に敏感なハクが愛李栖を好む理由はただ1つ。清廉無垢な心を持っているからだ。聖人君子でもほんの僅かだが闇は潜む。それを増幅させない為、ハクはひたすら浄化する。そのハクが愛李栖を気に入っているのだ。これは非常に稀なことで身の周りを世話する女官にもハクは一線を画し決して気を許さない。故に愛李栖は后妃として最も相応しく生まれてくる子も王の資質を備えているだろう。

「国が秩序と調和で成り立っているのは俺達が人事を尽くしているからだ。俺を怒らせれば根幹を揺るがす事態になる。そうなれば…」

「ええ、彩王が暴れたら地形まで無くなるでしょうね。」

「笑えない冗談は言うな。」

わざと眉間に皺を寄せるとコウは口元に笑みを乗せた。コウの不安は俺の不安でもある。取り除いておかないとソウやハクに伝染し国にも影響が及ぶ。国を守る為、愛李栖を失わない為に日々、目を光らせていた。

なのに何故、矢が…

「サ、サイ…」

愛李栖に突き飛ばされるまで気付かなかった。

「ア、愛李栖…」

突き刺さった矢は心臓を直撃していた。

「よ、良かった…アナタに当たらなくて…」

「っ!?」

「もっと…アナタと…居たかった…」

微かに笑うと目を閉じた。一体、何が起こった!?どうして愛李栖が…俺に当たらなくて良かった…まさか俺を庇って…

気が動転して頭が混乱して状況を把握出来ず、その場に立ち尽くしていると男がいきなり土下座した。

「も、申し訳ございません!!獣と見間違えて矢を放ってしまいました。どうか…どうか…命だけは…」

震える猟師にはっと我に返り急いで愛李栖を抱きかかえ瞬間移動した。そして、すぐさま医師に助けを求めたが既に事切れていた。

「そ、そんな…」

偶には気分転換も必要だろうと愛李栖を散策に連れ出した。木漏れ日に包まれた森。木々のざわめき。野鳥の囀り。小川のせせらぎ。2人で見上げた空は水彩画のように美しかった。

「もぅ…一緒に歩くことも見ることも…叶わないのか?」

青白い頬に触れると温かくて思わず「起きろ、愛李栖!!」と身体を揺さぶったが反応はなく抜け殻のようだった。さっきまで俺の横で笑っていたではないか?

「目を…覚まして…くれ。」

帰ってたら子供の名前を考える約束をしただろう?

「お、俺を…置いて…逝くな。」

瞼の裏に焼き付いた残像は胸を締め付け二度と戻らない幸福な時間は涙腺を崩壊させた。


[*前へ][次へ#]

13/22ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!