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色彩繚乱
12
時空を越え遥か彼方に目映いばかりの光。太陽のように温かく柔らかい光は穏やかにさせる。

この安心感は…そうか。これは黒曜石の輝き。

懐かしさに手を伸ばすと俺を愛おしげに包み込んだ。そうだ。全ては此処から始まったのだ。俺の半身、魂魄、片翼。黒曜石は龍人達の想念から生み出された石。即ち希望、幸福、慈愛の象徴。龍族の繁栄と龍国を守護する為、具現化された。俺は黒曜石と3つの龍石を従え皆が平穏無事に過ごせるよう絶えず闇を浄化し肉体が老いれば黒曜石が新たな人体を作り俺はそれに魂を移す。転生の儀式。

龍国は俺達の加護のもと何事もなく安穏な日々を送り続けた。そんなある日、俺の心を揺さぶる出来事があった。

それは…

「彩王、どうしたんですか?剣舞が始まりますよ?今日はどんな舞を見せてくれるんでしょうね。」

剣舞…

「初めて余興で見た時はワクワク、ドキドキしたよ。愛李栖、格好良かったぁ〜。」

愛李栖…

「彼女、綺麗…素敵。彩王、連れてきてくれてありがと。」

俺が連れて来た?お前を?

コウの期待した表情、ソウの弾んだ声、ハクの嬉しそうな顔。俺だけが霧の中を彷徨しているような妙な感覚に戸惑っていると曲が流れ舞台袖から女が現れた。

あっ…

女を捉えた瞬間、時が止まり映像が走馬灯のように俺の周りを駆け巡った。無数の場面は俺が無くした記憶。

どうして忘れていたんだろう。姿のみならず内面的も気高く美しく媚びず強請らず分を弁え慎ましく心根の優しい女を…。こんなにも愛している女を…俺は忘れていたのだ。

欠けた部分が1つ、1つ埋まっていく。だが俺の完成にはまだ足りない。探さなくては…俺は更に時を駆けた。




「龍王さま、万歳!愛李栖后妃さま、万歳!」

長い歴史の中で龍国に后妃が誕生したのは初だった。

「滞りなく無事に済んで良かったですね。」

成婚パレードには民が沿道に集まり祝福してくれた。

「ああ。これもお前が根回しをしてくれたおかげだ。」

「私は当然のことをしたまで。お気にならさずに。」

謙遜するコウを抱き寄せた。

「彩王?」

「どれだけお前が骨を折ったか俺は知っている。身分の低い者を后妃などもってのほかだと非難する者を説き伏せ逆らうなら罰するとまで言い切った。俺が率先してやらねばならぬことをしてくれた。お前には感謝している。」

腕に力を込めるとコウは「照れますから止めて下さい。」と俺から離れ、はにかんだ。ソウは「愛李栖、とっても綺麗だったね。僕、お姉さまが出来て嬉しいよ。なっ、ハク!」とハクに笑い掛けハクは「うん。僕、愛李栖、大好き。」と小さく笑った。そんな2人を見て俺も微笑んだ。これほど満ち足りた気分になったことはない。生まれて初めて実感する幸福。愛李栖と出会えて良かったと心から思った。

この肉体が朽ちるまで愛李栖と幸せを守り抜くと己に誓ったが愛李栖の懐妊で事態は急変した。大臣達は自分の地位が俺の子に取られるのではないかと騒ぎ立てた。だが俺は否定しなかった。前々から政治体制を変えようと思っていたからだ。しかし、これが悲劇の始まりになってしまった。

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あきゅろす。
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