色彩繚乱
9
意識を取り戻した俺は薄暗い部屋のベットに寝かされていた。俺以外の気配はしない。これ幸いとばかりに身体を起こしたが力が入らず起き上がるのがやっとだった。
「くっ…龍王の俺がなんてザマだ。」
己に苛々しながらも2人が気掛かりでソウに意識を集中させたが応答はなかった。良かれと思い結界を張ったが思量が足りなかった。
「…悔やんでも仕方ない。兎に角、此処から出なくては…」
重い身体を引きずりドアに向かった。その時、ドアが開いた。
「九重先生、傷の具合はどうですか?」
薄ら笑いを浮かべながら溝口が部屋に入って来た。
「貴様…」
痛みなんざ怒りに比べれば可愛いもんだ。
「怖い顔をしないでください。私はアナタの敵ではありません。」
この後に及んで白々しい 。
「お前が黒幕だと俺が知らないとでも思っているのか?」
「誤解しないでください。アナタ達をどうこうしようなんて露ほども思ってません。」
意外な言葉に瞠目した。
「言っておきますが連れて来たのは九重先生、アナタだけ。2人は別荘に居ますよ。アナタが居なくなって慌てているでしょうが。」
「嘘じゃないだろうな?」
「信じる、信じないはアナタにお任せします。」
嘘臭い笑いに疑念が膨らむ。
「仮に俺だけだとして拉致した理由は何だ?」
「アナタの身体は実に興味深い。探究心をそそられる。」
舐めるような視線に鳥肌が立った。
「き、貴様、もしや男色家か?」
嫌悪感を露わにすると眼鏡を押し上げ不愉快な顔をした。
「私はショタ好きでも男色家でもありません。」
ショタ好きとは言ってないんだが…
「ならば妙な言い方をするな。気色悪い。」
「私の口癖なんです。気を悪くしないでください。」
苦笑しながら指をパチンと鳴らした。すると部屋の隅からすっと恭弥が現れた。
「お呼びでしょうか?」
俺には目もくれず溝口の前で膝を折った。従順な人形のように。
「恭弥くん、君の活躍にご褒美をあげましょう。」
「ご褒美なんて勿体無い。僕は指示に従ったまでです。」
恭弥が右胸に龍力の経穴があるのを知っていたのは単なる偶然だと思っていたがコイツの指図だったのか。ということは俺のせいではなく溝口に唆されて…
湧き上がる殺意を抑えつつ溝口に尋ねた。
「溝口、貴様、恭弥に何をした?」
「殺気立つのは止めてくださいよ。私は恭弥くんに逃げ道を与えただけです。但し選んだのは彼、自身。」
「恭弥が決めたと言うのか?」
「ですよね?恭弥くん?」
問い掛けに恭弥は俺を見詰めて瞳を潤ませた。
「…酷い人。また僕に言わせるの?」
「恭弥…お前はコイツに心を操られているんだ。正気に戻れ。」
「僕は操られてなんかないし正気だよ?それに今更、引き返せないし彩龍は僕を孤独にする。1人はもぅ、嫌なんだ。」
ポロポロと涙を流す恭弥に俺は絶句した。突き放したのも受け入れなかったのも俺だ。恭弥の言う通り俺は側にいることも守ることも出来ない。
「九重先生、アナタは恭弥くんに何もしてやれないと思っているならアナタにしか出来ないことを教えてあげましょう。」
「俺にしか出来ないこと?」
嫌な予感に背筋がゾクッとしたが溝口は俺ではなく恭弥の耳元で囁いた。
何をひそひそ話しているんだ?
耳をそばだてたが聞こえなかった。
「…解りました。それがご褒美ですね。ありがとうございます。」
目元の涙を拭い嬉しそうに微笑んだ。嫌な予感が一層、増し、たじろぐといきなりベットに押し倒された。
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