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色彩繚乱


んっ…

瞼の奥に光を感じて目を開けると明るいはずの視野が何故か煤けていた。

『アナタがこんなに心配性だったなんて知らなかったわ。』

俺に話し掛ける女の呆れたような声音は聞き覚えのある声だった。しかし視界が悪く捉えることが出来ない。

『でも私の知らないアナタが見れて嬉しいわ。』

俺を知っている女。俺も恐らく知っている。だが顔が見えないせいで思い出せない。

『だって…私には心を開いてくれるから。』

照れくさそうな声に顔が見たくなり頻りに目を擦ると徐々に視界はクリアになった。これで女の顔が見れる。と思った矢先、女は背を向けた。

待て!待ってくれ!

必死で呼び止めたが振り返ることなく俺から離れて行く。

俺を置いて行くな!!

長い髪を靡かせ遠ざかる後ろ姿に大声で叫んだ。

「愛李栖ーっ!!」

はっ!!

自分の声に驚いて飛び起きた。

「はぁ、はぁ…」

息苦しい。動悸がする。胸が痛い。

「なっ…何だ?」

妙にリアルな夢は脳裏にこびり付き俺を動揺させる。

愛李栖…

「うっ…」

女の名は俺の胸を締め付けた。

『私には心を開いてくれるから…』

俺が心を許した女?幾度となく転生を繰り返して来たが一度たりとも出会えなかった。

「忘れるはずがない。」

しかし記憶を辿ってみても全く思い当たらない。ただ愛しさ、切なさ、悲しみが胸中に渦巻く。それらが何処から来るのか解らない。解らないが故に気持ち悪い。

「何なんだ。一体…」

横で眠るアキとソファーで寝息を立てるソウを置いて部屋を出ると窓から差し込む月明かりが廊下を照らし俺を外へといざなう。

ドアを開け冷たい外気を肺に送り込むと気分が少し和らいだ。別荘は郊外の小高い場所にある為、周囲はひっそりしていて聞こえるのは梟の鳴き声と冷たい風に揺れる木々の葉音。天を仰げば夜空に浮かぶ青白い満月が俺を見下ろす。

この世界の月も美しい。

暫く満月を眺めていると鳥が此方に向かって飛んで来た。

「っ!?」

徐々に近づく鳥に鳥ではないと気付き身構えた。
すると月を背に黒い翼を広げ舞い降りた魔物は恭弥だった。

「彩龍…会いたかったよ。」

微笑みを湛え俺を見詰める金色の双眸が暗闇でも妖しげな光を放ちゾッとするほど妖艶で背筋が薄ら寒くなった。

「こんな辺鄙な場所に隠れてたんだね。龍力を感知出来なかったら、あと2日は掛かったかも。結界を張ってくれたお陰で探す手間が省けたよ。」

俺が張った結界が裏目に出てしまった。くそっ…迂闊だった。

「アキは渡さない。」

殺気を漲らせると恭弥の瞳から涙が零れ落ちた。

「彩龍の頭の中に僕は居ないんだね。僕をこんな姿にしたのは彩龍なのに…」

「俺のせい…だと?」

「そうだよ。僕よりアイツを選んだから…僕に失望したから…僕を見捨てたから…僕は拠り所を失い絶望したんだ。」

…そうか。恭弥はあの時のことを…だから溝口に魂を捧げ人間を止めたのか。俺という拠り所を失った為に。俺は思い違いをしていた。意思の強い奴だと。

「…言い方が悪かった。」

「もぅ、遅いよ。」

「う゛っ!?」

一瞬だった。不意をつかれたとはいえ、こうもあっさり右胸を突き刺されるとは…

「安心して?殺しはしない。」

力が抜けていく…

「き、きょう…」

ダメだ…アキ…を…

「ご主人様が待ってるからね。」

耳元で笑う声が次第に遠くなり俺の意識も遠くなっていった。

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