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色彩繚乱
12完
「馬鹿にしないで!私は平民だけど身体を売るほど落ちぶれてないしプライドも捨ててない。私の剣舞を誉めてくれたって聞いたから来たのに侮辱するなんて酷すぎる。」

顔に似合わず度胸あるなぁ。でもサイに対して生意気な口、叩くと必ず酷い目にあわされるんだよな。きっと彼女も…と思っていたらサイは笑い出した。

えっ!?何で!?

「俺にそんなこと言う奴は初めてだ。気に入ったぞ。」

う、嘘だろ?怒るどころか気に入ったって…

「愛李栖、夜伽を許す。」

手を差し出すサイに彼女は呆気にとられ俺は愕然とした。

「あ、あの…私は…そんなつもりではなくて…」

戸惑う彼女の華奢な身体を抱き上げベッドに下ろした。

「ち、ちよっと待て!」

「何だ?今更。」

「そ、それは…その…」

口ごもる彼女にサイは怪訝な表情を浮かべたけど無理やり組み伏せたりしなかった。俺の時とは全然、違う。なんかもの凄くショック。

「さっきの威勢はどうした?」

頬を赤らめ恥ずかしそうに睫毛を伏せた。

「俺では不服か?」

「は、初めては…アナタが良いです。」

ギュッと目を瞑り小刻みに震える愛李栖は可愛らしかった。

「怖がるな。優しくしてやる。」

安心させる為に愛李栖の額にキスを落とした。俺には優しくしなかったくせに。怖がらせたくせに。

「サイのバカ…」

過去に焼き餅やいても仕様がないけど2人が愛し合うところなんか見たくない。

鏡に背を向け耳を塞ぐと
不意に鏡がカタカタ揺れ振り向くと場面が変わっていた。俺の気持ちを察してくれたのか情事は切り取られ、その代わりに2人の距離はぐっと縮まっていた。サイが彼女を宮廷に度々、招くようになったからだ。

「何時見ても圧巻だな。師は父か?」

「はい。父と共に鍛錬と稽古に明け暮れる日々を過ごしていました。しかし道場破りに父が負け修行の旅に出掛け母は私と弟を育てる為、日中を問わず働き続け身体を壊してしまい私が母と弟の面倒を見ています。生活は苦しいけれどこの技、一つで何とか生計を立ててます。」

凛として強い意志を持つ彼女は褒美の金品を受け取らず出された菓子や料理を持って帰る。決して人に媚びを売ったり強請ったりしない。貧しくともひたむきに技を磨きながら懸命に生きている。そんな彼女にサイは惹かれていった。

「愛李栖、俺と宮廷で暮らさないか?無論、母と弟もだ。楽をさせてやるぞ。」

「それは同情ですか?」

「同情で一緒に居たいと思うほど俺は酔狂ではない。俺が嫌いか?」

サイの問い掛けに愛李栖は首を横に振った。

「私のような身分の低い者が宮廷で暮らしたら龍王さまの面子が潰れます。」

「俺は今まで王として国を治めることだけ考えてきた。だがお前のことを思うと此処が苦しい。」

愛李栖の手を自分の胸に当て見詰めた。そんな熱い眼差しで彼女を見ないで?

「心配するな。文句など言わせない。俺がお前を守る。」

守るのは俺だけにしてよ?

「…ほ、本気?」

「嘘は言わない。龍王とはそういう者だ。」

真っ直ぐな瞳は嘘偽りがなくて愛李栖は躊躇いながらも小さく頷くとサイは愛李栖を抱きしめた。

「愛李栖、愛してる。心から…」

俺には一度も言ってくれなかった言葉を彼女には言うんだ。

「っ…」

胸が痛くて張り裂けそうで涙がポロポロ零れ落ちた。

悲しかった。俺より彼女を想っているから。妬ましかった。愛の言葉を貰えた彼女が。悔しかった。彼女にサイを取られたから。これは過ぎ去った出来事だと頭では理解しているのにやり場のない感情が蓄積してそれはやがて俺に悪意を齎した。

憎い…彼女が…サイは俺のモノだ。お前なんかサイに相応しくない。泥棒猫…いっそこの手で…

「う゛っ!?」

き、気持ち…悪い…胃の辺りが…ムカムカする。吐きそう…

「ごぼっ!」

口から黒い液体が吐き出された。瞬間、鏡が砕け散り白い空間が両手の形になり俺の身体を包み込んだ。

…あっ…この感じは…

光の中で感じた温かさは胸臆まで染み込んだ。

『落ち着きましたか?』

語りかける声音は澄んだ小川のせせらぎのように鼓膜に響いた。

「誰?」

『私は黒曜石。』

やっぱり。鏡も空間も黒曜石が作り出したんだ。

『アナタと私は一心同体。人間的な感情は私にとって猛毒。嫉妬は心を狭くし憎悪は心に闇をもたらす。そうなれば私はアナタと共存出来なくなり龍石共々、消滅してしまう。』

「…り、龍石も!?」

『彼らを生み出したのは私。核の存在無くしては生存出来ません。彩龍石の時は離脱できましたが私はアナタと同化した為、体内から出れないのです。』

「…そ、そんな…」

俺の存在は俺だけのものじゃあないんだ。


『これから先の出来事はアナタにとって耐え難いでしょう。そこでアナタの感情を一部、抑制させてもらいます。良いですか?』

「それって無感情になるのか?」

『いいえ、感情を抑えるだけです。』

俺の心が闇に侵されれば黒曜石のみならずサイ達も消えてしまう。なら俺の答えは決まってる。

「解った。好きにしてくれ。」

『では調節した後、直接、脳に映像を送りますので私の手の中で楽にしててください。』

言われた通り目を閉じ身体の力を抜いた。感情を抑制されたらどうなるか解らないけどサイ達が無事に過ごせるなら俺は何でもする。失いたくないから。ずっと一緒に居たいから。


次回はサイ視点。

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あきゅろす。
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