色彩繚乱
8完
開始から約7時間。漸く由仁の意識がなくなった。
「はぁ…今回は何時も以上にしぶとかった。」
俺は怠い腰を押さえながらシャワーを浴びてコンピュータールームに足を運び入り口のパネルに手と目を当てた。
『角膜、指紋、オールグリーン。鳳サマどうぞ。』
自動扉が開くと白夜さんが振り向いた。
「やぁ、翔チャン。思ったより早かったね。」
その言葉は状況を把握している証拠だ。フランから聞いたんだろう。報告に来る必要はなかったな。
「えぇ、まぁ…」
「世話を焼かせてごめんね。ご苦労様。」
原因が俺だから責められるかもと危惧していたが労いの言葉と微笑みを貰えて良かった。
「ところで何をしてるんですか?」
「最終チェック。念には念を…ってね。九重のセキュリティーは厄介だから。」
画面に並ぶ数字と文字の推移確率行列パスワードクラック。複数ある解析プログラムを島風がランダムに文字を組み合わせ文字列を生成してパスワードをクラッキングしていく。この解析ソフトを白夜さんは島風を使ってたった1日で作成した。俺はサポートしただけだが俺なら軽く見積もっても1ヶ月以上掛かるだろう。プログラマーとしても研究者としても彼は卓越している。白夜さんの側にいれば新しい扉が開く瞬間を間近で見られる。この感動と優越感は堪らない。
「厳重なセキュリティーと解読不能に近いパスワードで守られ仮に侵入出来たとしても経路は迷路状態。どんなに優れたハッカーでも手を焼くでしょう。まさに鉄の要塞です。」
「鉄の要塞か。それを僕らが崩すんだ。楽しみだね。」
悪戯っ子みたいに瞳を輝かせる。バレたら大事なのに大した人だ。
「俺はハラハラドキドキですが。」
「僕はワクワクするよ。不可能を可能にした瞬間、えもいわれぬ喜びで心が満たされるから。」
「それなら解ります。誰も成し得なかったことをやり遂げた時、達成感と充実感は得られますが…」
「こんな機会、滅多にないし楽しもうよ?」
度々あったら心臓が持たないっつーの。
「あ、これ、貰って良いですか?」
テーブルの上の煎餅とドーナツを指差した。
「お腹空いたよね。全部、食べて良いよ。」
「じゃ、遠慮なく…」
手を伸ばしたその時、フランが現れた。
「うおっ!?」
「ボス、ちよっと良いですか?」
フランらしくない真面目な顔付きに白夜さんは作業を止めて「どうしたの?」と尋ねた。
「実は封じ込める結界を強力にしようとしたら思いの外、時間が掛かりそうなのでロボに黒曜石を誘い出してもらいたいのです。」
「アイスに?」
「私だと魔力を感知される恐れがありますから。」
「君の言うとおりアイスなら気付かれないだろうね。失念していたよ。ありがとう。」
「…いえ。では準備に取り掛かります。」
胸に手を当てお辞儀すると消えた。やはり様子が可笑しい。
「白夜さん…」
「言いたいことは解ってるよ。でも彼を信じよう。」
白夜さんも感づいている。それでも信用すると言うなら俺は従うまで。だが保険は必要だろう。
「白夜さん、千景を同行させませんか?」
「ちーちゃんを?」
「ええ。千景が一緒なら宇佐木も疑念を抱かないかと。」
「ちーちゃんを巻き込むのは不本意だけど翔チャンの言うことも一理あるね。」
「アイツは単純脳筋バカなので説明しても理解できないでしょう。なので俺のマンションに連れて行けとだけ伝えます。」
何かあれば直ぐに俺に連絡しろと付け加えるが。
「それで良いよ。アイスには僕から指示を出しておく。」
計画は少し変更になったが修正可能範囲。不安材料はフランだけ。
「心配かい?」
「ええ。」
相手は得体の知れない輩。不測の事態もあり得る
「気掛かりは闇側だけど闇も記憶を取り戻して欲しいはず。そうじゃなかったら秘密裏に僕らを抹殺するだろう。この星は欲にまみれた人間が多いから闇力に溢れている。」
確かに人間は強欲で嫉妬深く貪欲だ。闇を好む奴にとって糧は腐るほどある。だがそれをしないのは忘れられたままだからだ。存在しているのに存在を認めて貰えないのは腹立たしいよな。
。
「反撃に出るのは記憶が戻ったあとだと思うよ。」
「ですね。心配は後回しにします。」
記憶を取り戻した時、白夜さんがどうなるか解らないが俺の気持ちは変わらない。白夜さんに従属し全力で守る。それだけだ。
終わり。次回は亜樹視点。
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