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エビチュ
16
土曜日。

試合時間が迫っていたが赴く気になれなくてマーブルと遊んでいた。

「ほら、取ってみろ。」

先端に蝶々の付いた猫ジャラシをマーブルの前で蝶のようにゆらゆら揺らすと獲物を狙うような姿勢になった。教えなくても本能で蝶の動きを注意深く観察しタイミングを見計らってジャンプ。瞬間、マーブルの姿がジャンプシュートする自分の姿とダブり耳奥で歓声が響き渡った。

『ナイスシュー!!』

『おおーっ!!逆転だーっ!!』

『ハル!』

真人とハイタッチして拳を合わせた。

『よし!!これで流れはうちに来た!!勝てるぞ!!』

「にゃっ、にゃ!!」

はっ!!

蝶をキャッチしたマーブルが蝶に猫パンチをしていた。

「あっ…」

手の平が熱くて身体が震えた。感じたい。あの感覚を…

俺はマーブルをゲージに入れチャリを飛ばし体育館に向かった。

…今からでも間に合う。

だけど行かなければ良かったと後悔した。

「あの眼鏡。1人で3人も抜きやがった。」

「あれで一気に点差が開いたよな。牡丹とのコンビネーションもイケてるぜ。」

「今年のインハイ、期待出来そうだな。」

「きゃ〜!カッコいい〜!」

「芝くん1年でレギュラーなんて凄いよねぇ。」

観客が興奮するのも解る。芝は真人が動きやすいように相手をマークし抜かれないよう機敏に反応してゴール間際では相手の隙をついてカット。こぼれ落ちたボールを透かさずキャッチ&パス。予想以上の活躍に俺は愕然とした。練習試合とはいえ相手はインハイ常連校。向こうも必死なはず。なのに20も点差をつけてうちが勝っている。

「…俺は必要ないのか…。」

真人の生き生きとした表情が目に痛くて唇を噛み締めてないと涙が出そうで逃げるように体育館を飛び出した。

…悔しい。悔しくて堪らない。

無我夢中でチャリを漕ぎ家に着くと自室に入りベットに突っ伏し声を殺して泣いていたらゲージの中のマーブルもしきりに鳴いた。

「お前まで…なくなよ…」

ゲージから出して小さな身体を胸に抱くと俺の指をペロペロ舐めた。

「慰めてくれるのか?」

「にゃ…ぁ…」

悲しげな鳴き声はまるで「ごめんね。」と言ってるみたいで「お前のせいじゃないよ。」と頭を撫でた。マーブルは悪くない。遅かれ早かれ俺は芝に負けていた。そこそこの俺がどんなに努力しても才能のある奴が懸命に練習してたら俺に勝ち目はない。真人の隣は俺の指定席だった。だけどちよっと席を外したら芝が座っていた。終点まで空かない席の前で俺は立ち尽くすことが出来るだろうか?真人の力になれない自分を不甲斐ないと思いながら情けない自分を嫌悪しながら。

「…っ…む、無理だ…」

真人は俺が辞めたら自分も辞めると言った。でも今日の芝のプレーはキレがあり十分、チームに貢献していた。あのメンバーならインハイ予選を勝ち抜くことが出来るだろう。真人も解ったはずだ。アイツの実力を…。

「ぅうっ…あぁ…」

涙がとめどなく溢れマーブルの背中を濡らした。だけどマーブルは逃げることなく俺の指を舐め続けてくれた。傷付いた心の傷口を塞ぐように。


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あきゅろす。
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