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エビチュ
10
放課後。

部活を休むと竜宮にメールを送り真人には「1人で探す。お前は部活に行け。」と告げた。昼休み終了間近、芝に言われたことが脳裏から離れなかったからだ。

「ハル1人じゃ大変だよ。俺も休むから。」

協力してくれるのは嬉しいけど真人まで休んだら用事が俺絡みだと解り芝は更に俺を敵視するだろう。

「気持ちだけで十分だ。」

「ハル、何かあった?」

隠し事しても見抜かれるのは解っていても芝のことは言えない。言えば、あの冷たい瞳でまた嫌みを吐くに決まってるし部内を険悪なムードで包みたくなかった。

「何もない。じゃあ、俺、急ぐから。」

「あ、ハル、待って!」

真人を無視して教室を出ると海老根とすれ違った。

「桜、部活に行くのか?」

俺があの場に居たのを知らない海老根は普通に話し掛ける。でも原因は俺だから「用事があって休む。悪いけど急いでいるんだ。」とそそくさと立ち去った。

変に思ったかな?

「…思ったよな。」

人と関わるのは嫌いじゃない。バスケは1人じゃ出来ないから。けど誤解や思い違いで疎遠になったりギクシャクしたりする。1人は楽だけど1人は寂しい。人は皆、矛盾を抱えて生きている。俺も含めて…

『♪〜〜』

不意にトランペットの音が風に乗って耳に届いた。吹奏楽部が音合わせの練習を始めたのか。

「気分転換にちよっと聴いていこう。」

校舎から出て中庭に足を運んだ。すると「桜く〜ん!」と乙姫が手を振るから近寄り話し掛けた。

「乙姫、何の曲を吹くんだ?」

乙姫とは竜宮と亀梨を通じて話すようになった。小さな顔に大きな瞳は愛らしく竜宮も亀梨も乙姫には甘々だ。

「ブラームスの交響曲第1番 第4楽章だよ。」

聴いたことないな。どんな曲だろう。

「邪魔にならないようにするから少し居ても良いか?」

「良いけど、部活は?竜ちゃん、亀ちゃん、牡丹くんを待たせて大丈夫?」

「今日は用事があって休んだ。」

「そうなんだ。ところで、桜くん、伊勢谷くんと友達だよね。彼をバスケ部に勧誘しないの?」

伊勢谷がバスケ部に入部すれは戦力が強化され勝率も上がるだろう。申し分ない身長、優れた身体能力。それに加えセンスもテクニックもピカイチ。以前、体育の授業で竜宮と亀梨が伊勢谷と試合しているところを見掛け驚嘆したものだ。もし海老根がバスケに興味があってそこそこ運動神経が良かったら口説き落として入部してもらうところだが残念なことに運動オンチ。こればかりは仕様がない。

「伊勢谷が帰宅部の海老根を放っておくわけないから誘わない。」

好きということを伏せて言うと乙姫は「海老根ってさ、ムカつくと思わない?」とあからさまに嫌な顔をした。

「才能ある伊勢谷くんを独り占めして、ほんっと目障りな奴。」

ズケズケ言うのは幼なじみの竜宮と亀梨だけだと思ってたけど。

「乙姫は海老根が嫌いなのか?」

「うん。だいっきらい。」

にっこり笑って言い切る乙姫に驚いた。

「乙姫〜!始めるよ!」

「はーい。桜くん、ゆっくりしていってね。」

さっきの黒い笑顔は錯覚なんじゃ…と思うくらい俺に向ける微笑みは可愛らしい。人は見かけによらないという代名詞がピッタリだな。海老根を嫌う理由は解らないけど。

「あ、ああ。」

乙姫達が楽器を口に当て演奏の準備に入った。俺はベンチに腰掛け足を組み目を閉じた。ホルンとトランペットが夢幻のループにいざなう。

心地良い…このまま眠って…はっ!!子猫!!

危うく忘れるところだった。演奏中に声を掛けるわけにはいかないので無言で腰を上げ真人の家に急いで向かった。

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