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エビチュ

海老根の家と俺の家はチャリで15分くらい。夕日を背に坂道を登り真っ直ぐ進むと茶色の一軒家が海珂の家。駐車場にチャリを止めてチャイムを鳴らすと扉が開いた。

「よ、よぉ、海珂。」

ぎこちなく笑う俺に海珂は眉根を寄せた。

「ったく、体調崩すぐらい悩みやがって。」

「し、しゃーねぇだろ。こんなこと…相談するの…勇気がいるんだよ。」

気恥ずかしさから小声になる。

「まぁ、そうだよな。とりま、上がれよ。」

「うん。」

靴を脱いで海珂の後に続いてリビングに入ると伊勢谷が居た。

「っ!?」

…な、何故、伊勢谷が?

たじろぐ俺に海珂は苦笑い。伊勢谷はじろりと目を動かすのみ。なるべく伊勢谷から離れた所に腰を下ろした。コイツがいるってことは海珂から事情を聞いたんだな。

「ジュースで良い?」

「い、いらない。海珂も座れよ。」

伊勢谷と2人っきりはキツい。纏う空気がピリピリしてて何となく落ち着かない。

「相談って黒虎と仲直り?それとも決別?」

いきなり本題きたーっ!

「うっ、あっ…その…えっと…」

心の準備が出来てなかった俺はしどろもどろ。

「来間、 ハッキリしろ。」

表情はそのままでも口調はイラついてる。

「な、何でお前に言われなきゃなんねーの?カンケイなくねぇ?」

「黒虎が海老根にちょっかい掛けるからだ。」

「はぁ?何?それ?」

海珂にどうゆう意味だ?と尋ねたら困った顔をした。

「伊勢谷は俺が黒虎と話すのが気に入らないんだよ。で、海渡、黒虎のことどうすんの?」

「…それは… 」

俯くと伊勢谷が口を挟んだ。

「来間、黒虎とは縁を切れ。そうすれば海老根もお前も揉め事に巻き込まれないで済む。」

「え、縁を切れ!?」

海珂に言われるならまだしも伊勢谷に言われるとは思っていなかったから素っ頓狂な声を上げてしまった。

「伊勢谷は黙ってろ!海渡、お前の気持ちはどうなんだ?」

凝視する海珂に俺は口ごもった。

「そ、それは…その…」

「黒虎と別れるのか?」

「別れるつもりはないけど…信じられない気持ちがあって…」

「あんな場面見せられたら不信感抱くよな。黒虎って相当、屈折してるよな。ヤキモチを妬かせたかったらしいけど。別れる気がないなら悩んでないで黒虎と向き合えば?」

解ってるけどそれが出来ないから此処に来たんだ。

「…キッカケがないと話し合えない。」

「キッカケかぁ…」

俺と海老根が頭を捻っていると伊勢谷がボソッと言った。

「女装しろ。」

「は?」

突然、意味不明なことを言う伊勢谷に困惑していると海珂が「アホなこと言ってんじゃあねぇ!!それはてめぇの趣味だろうがっ!!それに女装する必要性がないってーの!!」と伊勢谷に怒鳴った。

「そうでもないぜ。来間が可愛く着飾ったら黒虎のことだ。飛んで悦ぶぜ。」

「悪いのは黒虎だ。悦ばせてどうすんだよ!?」

「悦ばせておいて甚振るんだ。ジワジワと。此処に姉貴から借りてきた同人誌がある。来間に渡そうと思って持ってきた。」

鞄の中から取り出してテーブルの上に置いた。

「こ、これは…」

『女装少年の快楽。』と『女装でイチャイチャ♪』と『男の娘だって女の子に負けないんだからっ!プンプン!』と見なくても内容が解るような…。てゆうか、伊勢谷のねぇちゃん、顔に似合わずそっち系のマニアだったんだ。

「これを参考に黒虎を懲らしめろ。とことん嬲って泣いて謝るまで虐めろ。」

真顔で過激な発言をする伊勢谷にあんぐり。

「…お前、黒虎が大嫌いなんだな。」

海珂が呆れたように言うと伊勢谷は唇を歪めた。

「当然だ。アイツが来間に弄ばれてるのを想像したら…くくっ…」

無表情で笑う伊勢谷は超不気味で海珂を一瞥したら顔面が引きつっていた。

「お、おい、海珂、どう思う。」

「へ!?あっ、ああ…っと俺は…いや、海渡が決めろ。」

…決めろって…女装なんて…

「あ、そういえば、海珂、クリスマスの時、女装してたよな?あん時、伊勢谷、どうだった?悦んだのか?」

「う゛っ…嫌なこと思い出させんなよ。」

海珂が顔を顰めると伊勢谷は海珂を見て目を細めた。

コイツがこんな顔するぐらいだ。きっと黒虎も悦ぶだろうな。でも俺が女装しても気持ち悪いだけだと思う。

「海珂は可愛いから似合ってたけど俺は…」

「海渡なら大丈夫だよ。なぁ、伊勢谷。」

「ああ。問題ない。」

2人からお墨付きをもらって心が揺らいだ。

「…少し考えてみる。」

「海渡、無理すんなよ?」

「あ、うん。伊勢谷、これ、借りて帰るよ。」

「決心がついたら海老根に色々教えてもらえ。その道のプロだ。」

「あのなぁ…そうゆう言い方止めろよな。好きでマスターしたわけじゃあねぇし。」

海珂が力になってくれたら何とかなりそう。だって伊勢谷が太鼓判を押すぐらいだから。

「海珂、決心がついたら、そん時は宜しく頼むわ。」

小さく笑うと海珂は溜め息混じりに頷いた。

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あきゅろす。
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