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エビチュ

身体を洗い流した後、自室に戻ると即行で電話した。けど案の定、着拒。しかし、めげることなくメールした。

「読んでくれないかもなぁ…」

部屋に居ても落ち着かず家に行ってみようと思ったが肝心の家を知らなかった。

「誰か他に…あ、そうだ。エビちゃんに…いや、伊勢谷が面倒だな。」

やっぱ明日まで待つしかねぇか。来間ちゃん、許してくれるかなぁ。別れるとか言われたら俺、土下座しよう。

自分が蒔いた種とはいえ、こんなに後悔したのは初めてだった。悶々とその日をやり過ごし朝飯もそこそこに登校した。

「あ、来間ちゃん…」

おはようと言う前に席から立ち上がって教室から出て行った。

う、うわぁ。完全無視かよ。

それでも授業が始まれば逃げれないだろうと何度となく話し掛けたが目を合わすどころかそっぽを向かれ微かな望みも砕かれた。

ヤバい、ヤバい、激ヤバ。何とかしなくっちゃ。

昼休みを待って来間ちゃんの腕を掴んだ。

「来間ちゃん、お昼、一緒しょ?」

「離せよ!この変態!」

「変態って…」

周りからじろじろ見られ此処では話せないと思い無理やり手を引っ張ってトイレに連れ込んだ。

「来間ちゃん、俺の話を聞いてくれよ?」

「今更、何、言ってんだ?俺と別れたいからあの場に呼んだんだろ?」

真っ赤な目で睨まれ胸がズキズキ痛んだ。

一晩中泣いたんだろうな。眠れなかったんだろうな。

「誤解なんだ!俺が好きなのは来間ちゃんだけだ!来間ちゃんは俺の運命の相手なんだよ!あれは来間ちゃんを嫉妬させたくて…」

嘘偽りなく本心を吐露して平謝りに謝った。けれど表情は変わらなかった。

「…そんな話、信じられない。」

肩を震わせ今にも泣きそうな来間ちゃんに俺も泣きそうになった。

「…どうすれば…どうすれば信じてもらえる?」

「…そんなの解んない。」

「解んないって…何だよそれ?ハッキリ言ってくれよ?」

思いあまって肩を掴んだら股間にまた蹴りを入れられた。

「う゛う゛っ…」

「俺に触るんじゃねぇ!俺以外の奴を抱いた手で…俺に…触るな!」

昨日と同じで両目に涙を溜めるとトイレから出て行った。

「くーっうぅ。ってぇ。」

よっほど俺のチンポが憎いのか…ってそりゃあ、そうだよな。当然の報いだよな。

玉を押さえて床に跪くと誰かがトイレに入って来て目をやると海老根だった。


「黒虎、腹痛か?」

「ちげーよ。これは愛の試練だ。」

「はぁ?愛?変なもんでも食ったのか?」

訝しげな視線と痛みに耐えながら俺は海老根にお願いした。

「あのさ、突然でなんだけど来間ちゃんの家、教えてくんない?」

「海渡んち?薬局じゃあないよ?」

だーっから、そっちじゃあねぇっつってんだろ…

「あ、っと…喧嘩しちゃって…口、聞いてくんなくって困ってんの。」

「喧嘩?何、したんだ?」

言ったらアイツらみたく絶対、バカにされる。

「…内緒。」

「言えないなら教えない。海渡は俺の大切なダチだからな。」

可愛い面で可愛くねぇこと言いやがる。

「俺がわりぃんだよ。来間ちゃんを傷つけるようなことしたから…」

「だったら尚更、訳を教えてくれよ。お前ら付き合ってんだろ?」

「え!?なんで知ってんの?」

「海渡からそれとなく聞いた。」

来間ちゃんは海老根に言ってくれたんだ。なんか嬉しいなぁ。

「もし話したら協力してくれんの?」

「内容次第だな。」

うーん…正直に言った方が良いのやら嘘を言ったらい良いのやら…。

悩んでいると伊勢谷がやって来た。

「遅いから来てみれば黒虎相手に何をしてるんだ?」

…ちっ。海老根のケツばっか追い掛けてんじゃねぇ。

「俺に話があるみたいで待ってる。」

海老根の言葉に伊勢谷の目つきが変わった。

「わわっ!伊勢谷、誤解すんな。この間とは状況が違うんだ。」

「嘘じゃないだろうな?」

「あ、ああ。お前を敵に回すほど俺はバカじゃあねぇ。」

「何の話?」

海老根が首を傾げると伊勢谷は「いや、良いんだ。なら海老根を待たせるな。」と威圧感ありありの目で見下ろす。

「そうだよ。黒虎、往生際が悪いぞ。さっさと吐け。」

「よく解らんが男なら潔く観念しろ。」

尋問される犯人と刑事みたい。なんなの、これ?

「あ、あのさ…非常に話しにくいんだけど…」

話しやすい雰囲気を作ってくれなきゃ話せねぇっつーの。

「ならば話すな。お前に関わるとろくなことになりかねない。海老根、他のトイレに行くぞ。」

伊勢谷が海老根の腕を掴んで出て行こうとするから慌てて引き留めた。海老根は頼みの綱だからだ。

「ま、待て、待ってくれ。話すから。」

恥を忍びつつ事情を説明した。


「…というわけなんだ。あ、バカとかゆうなよ?」

「バカとゆうか、間抜けだろ?」

ま、間抜けって…エビちゃん手厳しいな。

「自信家だと思っていたが意外と小心者だな。」

むかっ。仮面顔で貶すな。

「う、うっせぇ。てめぇらより俺は繊細なの。」

今まで恋とか愛とか目に見えねぇもんは信じてなかったから不安なんだよ。何時、心替わりするか解んねぇじゃんか。

「繊細はどうかは謎だけど海渡が怒るのも無理ないな。」

「軽はずみな行動は身を滅ぼすとゆう良い見本だ。」

「おい、俺の傷に塩を塗るのはよせよ。落ち込んでんのに。で、協力してくれんだろ?」

「協力はできないけど家なら教える。後で紙に書いて渡すよ。」

「えぇーっ!?」

「ということだ。海老根、行くぞ。」

伊勢谷は俺から海老根を引き離したいらしく海老根の肩を抱くと出て行った。まぁ、いいや。家を教えてもらえるなら上出来だと思うことにした。

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