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エビチュ


女達の高笑い。
卑猥な水音。
キツい香水。
湿った空気。
何もかもが俺を苛む。

『まだ、出るでしょ?祖チンでも若いんだし。』

『男の意地をみせて?僕ちゃん。』

…止めろ…触るな。もっ…勘弁してくれ…

『ほら、もっと奥まで…』

「うわぁーっ!?」

夜中、悪夢にうなされて目覚めた。

「はぁはぁ…」

額と背中に汗が張り付く。

「まただ…」

あの日から俺はまともに眠れない。目を閉じると視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚の五感が俺をおびやかす。嬌声、化粧と香水の匂い、生殖器から溢れる粘着質の液体。俺の身体を貪り弄ぶ細い指先、グロテスクな性器。撓わな乳房、柔らかい肌、丸みを帯びた体躯。全てが嫌悪の対象になってしまった。

気持ち悪い…吐きそう…。

「うぅぇ…っ…」

どうしてこんなことになったんだ?これじゃあ…俺…恋愛どころか結婚もできない。

脳裏に浮かぶのは女性恐怖症とゆう精神病。絶望的な将来に涙が流れる。女性が怖くてクラスの女子と喋れないほど重症だった。

「海渡、アンタ変よ?何か悩み事でもあるの?」


「ううん。何でもないから。」

口数が減ってよそよそしくなった母親が心配して話掛けるけど愛想笑いをするのが精一杯。

ごめん。母さん。母さんもダメなんだ。こんなこと誰にも相談出来ない。こんなこと…



「来間ちゃん?」

「っ!?」

身を強ばらせると黒虎が心配顔で俺を見詰めた。

…ほっ。女子じゃあなくて良かった。

「大丈夫?ぼんやりして、具合でも悪いの?」

「わ、わりぃ。最近、寝不足で…」

「そういえばクマさんが 居座ってるねぇ。」

目の下をなぞる黒虎。同性は平気でもこれが異性なら突き飛ばしてた。

「はぁ…不眠症に効くもんないかなぁ…」

「ん〜、そうだ。家に来ない?睡眠を誘う音楽やグッズなら沢山持ってるから。アロマにヒーリング、癒し系、何でもあるよ。」

アロマに音楽かぁ。睡眠薬を飲むより良いかも。

「試してみようかな。」

「よし、決まり〜。ガッコ終わったら一緒に帰ろう。」

嬉しそうに笑う黒虎に俺も小さく笑った。出会った頃はこんなに仲良くなるとは思ってもみなかった。不思議だな。今ではコイツとツルんでばかり。気が付けば傍にいる。黒虎は優しい。あれこれ詮索しないし、こうして俺の為に気を使ってくれるし。楽屋で気絶していた俺を介抱してくれた。何も聞かずに。黒虎が恋人だったら。

はっ!?

俺…今…とんでもないこと考えてなかったか!?
いくら女が無理だからって…

チラッと黒虎に視線をやると頬杖をついて授業を聞いている。

長い睫毛に縁取られたやや下がり気味の目尻。すっと通った鼻筋。頬を支える長くて綺麗な指。その指でマイク持って、ハスキーボイスで歌う。あれはカッコ良かった。胸がドキドキして…

なっ、何、今更、意識してんだよ!!?信じらんねぇーっ!つか、相手は黒虎だぞ?男だぞ?友達だぞ?

「…どうかしている。」

ボソッと呟くと黒虎が俺を見て目を細めた。

キュンっ!!

ヤっ、ヤバい…顔が赤くなる。ヤバい…ヤバい…

俺は赤くなった顔を見られたくなくて教科書で隠した。

なんなの?この気持ち?気の迷い?それとも…いや、いや、有り得ない。

一瞬、恋とゆう単語が頭を掠めたけど急いで打ち消した。だって認めてしまったら黒虎と友達じゃあ居られなくなる。せっかく友達になれたのに。もう、傷付きたくない。これ以上、失いたくない。傷付くのも失うのも女だけで良い。

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