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エビチュ



(海老根視点)


「海ちゃん、写真の整理をしていたらこんな写真出てきましたよ。」

父さんから受け取った写真は中学の入学式に撮った写真だった。

「あ〜、これ、伊勢谷に渡しそびれてたやつだ。懐かしいなぁ。」

「どうりで2枚あるんですね。伊勢谷くんにあげてください。喜びますよ。」

この頃の俺は伊勢谷を友達以上には思ってなかった。


雲一つない晴れ渡った青空の下、桜が俺達を歓迎するように揺れ頬を掠める春風は心地よく俺はウキウキ。だけど伊勢谷は俺と同じクラスになれなかったせいで眉間に深い皺を刻んでいた。

「落ち込むなよ?来年があるじゃん。」

気を使って言った言葉に「ああ。」と一言。相変わらず口数の少ない奴。

「ところでさぁ…」

話題を部活に変え、何処に入部するか尋ねたら運動部と答えた。だから少林寺を勧めた。でもこれが不味かった。俺は字が汚いから書道部に入るつもりだったのに伊勢谷は俺を強引にマネージャーにした。俺の意思を無視して。これには怒りMAXで怒鳴ったら伊勢谷は狼狽え、らしくない表情をして謝った。

俺の身体を傷付けたくないけど一緒に居たい。クラスが違うからせめて部活だけでもと思う伊勢谷の気持ちは解る。けどどうにも腹の虫がおさまらなくて伊勢谷に無理難題をふっかけた。

そうしたら一心不乱に練習し始め、俺も負けてらんないと気乗りしなかったマネージャー業に専念した。先輩達は気さくで優しく顧問も何かと気遣ってくれて、これで良かったのかもと思ったり。だけど1つだけ不満がある。それは朝練だ。

マネージャーの俺は朝練に顔を出さなくても良いのに伊勢谷は毎朝、部屋まで起こしに来て俺を無理やり引っ張って行く。ぶりぶり文句を言ってもお前の為に頑張ってるんだの一点張り。余計なことを言わなければ良かったと後悔した。

夏休みもほぼ部活。朝から夕方までみっちりと練習。その甲斐あって伊勢谷の上達ぶりは目を見張るものがあり先輩達も感心していた。それに伴ってか図体はデカくなり着替える時に垣間見た上半身は筋肉が綺麗についていて不覚にも見とれてしまった。

その頃からだ。女子が俺に伊勢谷のことを聞いて来るようになったのは。

「彼女いるの?」とか「好きな子は?タイプは?」とか。流石にそれは俺です。なんて言えるわけもなく、「そういう話、したことないから…」と笑って誤魔化した。

伊勢谷の奴、モテるんだな。

確かに練習姿は格好良いし顔はイケメンの部類に入るし背も高いしスタイルも良いし。キリッとした眉、二重の涼しげな目元、スッとした鼻筋、形の良い唇。これに表情が加われば非の打ち所はないだろう。もしかしたら女の子と付き合えば変わるんじゃないかと思った矢先、たまたま、告白場面を目にした。乙姫は意外だったけど。

これは伊勢谷を真っ当にするチャンスだ!

俺は伊勢谷をけしかけた。すると突然、キスされた。小学生の時以来、二度目のキス。これが凄かった。伊勢谷の舌が俺の舌に絡まって口内で交差する感触は脳内を麻痺させた。

気持ち良い…溶けちゃいそう…

ぼーっとしてたら唇が離れ我に返ると羞恥心で一杯になり思わず伊勢谷にビンタを食らわし二度とするなと怒鳴った。俺の言葉は伊勢谷を落胆させ縋るような瞳と声音は体育倉庫で見た伊勢谷を彷彿とさせた。

そんな顔すんなよ。怒れなくなるじゃんか。

普段、無表情なだけに少しでも変化があるとこれ以上、責める言葉を言えなくなってしまう。

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