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エビチュ
10
「…漫画家って大変なんだな。」

そういえば舞い上がってて皆川先生の顔を良く見てなかった。今度、いつ見れるか解らないから今の内に目に焼き付けておこうと踵を返すと芝が立っていた。

「星、良かったね。」

その笑みが不自然で違和感を覚えた。

「何で、笑ってるんだ?」

不機嫌顔をするなり悪態つくなりすればいいのに。

「え?」

俺の知ってる芝はそんな嘘臭い笑い方しないし全然、芝らしくない。

「俺が甘木さんの家に行っても平気なのか?」

いつもみたいに悪態ついて俺に謝らせろよ。

「そういうこと言うんだ。」

見る見るうちに芝の表情が冷めていった。あれ、前にもこんなことが…

「目くじら立てて誹り罵ったら良いの?甘木さんの心配なんかして僕が居るのに誘い乗って…ふざけるな、この裏切り者って怒ったら良かったの?」

俺を捉える双眸までも冷たい目つきに変わった。マ、マズい、この展開は…

「そ、そうじゃない。お前がらしくないから…」

「星、僕、言ったよね?特別だって。」

あっ…そうだ、今日は…

「どうして僕がそうしないか言わなきゃ解らないんだ。星なら解ってくれると思ってたけど思い違いしてたみたい。甘木さんの家に行きたいなら行けば良い。僕は帰る。」

俺の横を素通りして店を出て行った。

俺はなんて愚鈍でバカなんだろう。芝がらしくないのは気まずい雰囲気を作って初デートを台無しにしたくなかったからだ。

追いかけて謝らないと…

急いで店を出で芝の後を全速力で追った。

あっ、いた!!

「芝、待て、待ってくれ。」

手を伸ばして芝の肩を掴んだ。

「は、離せ…」

声が震えてる。まさか…

掴んだ肩に力を入れ振り向かせた。刹那、息を呑んだ。目尻に涙を溜めていたからだ。

「み、見るな。ほ、星なんか…嫌いだ。」

嫌われたくない、大事にしたいって思っていたのに泣かせて傷付けて…今すぐ抱き締めて謝りたい。けど人目があるから出来ない。かといって家に帰るまで待てない。

確かこの近くにあったはずだ。

俺は芝の腕を掴んで引っ張った。足を踏ん張っても構わず力で芝を歩かせた。大通りじゃなければ拒んで喚いたかもしれない。それが唯一の救いだ。路地裏に入り裏通りに出るとラブホが見えた。

「ち、ちよっ、何、考えてんの!?」

黙っていた芝が驚きの声を発した。そりゃあそうだ。ラブホテル街だからな。以前、クロ先輩に男同士でも入れるラブホテルを聞いた。いつか入ろうと思って。こんなに早く利用するとは思わなかったけど。日曜日の夕方だからか辺りに人影はない。

「騒ぐと怪しまれるぜ。」

耳打ちすると芝はギョッとして周辺を見回した。


「大声を上げればラブホから人が出てくるかもな。」

「〜〜っ!!」

口をもごもごさせたあと唇を噛んだ。

「文句なら幾らでも聞いてやるし殴りたいなら何発でも殴らせてやる。だから大人しく俺について来てくれ。」

嘘じゃないと目でも訴えると観念したのか溜め息混じりに小さく頷いた。

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あきゅろす。
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