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エビチュ
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「これで冷やして少し休んでください。翔さんには僕から伝えておきますから。」

額に当てたまま葵さんは俯くと力のない声で「…うん」と言った。

やっぱり無理をしてたんだ。帰した方が…いや、翔さんに聞いてみないと…。

「じゃ、僕、行きますね。」

急いで店内に戻り翔さんを探したけど見つからなくて焦っているとお客さんから酎ハイを頼まれ仕方なく作り持って行ったら翔さんが入り口から入ってきた。

「ごめんねぇ、ダーリンを見送っていたの。」

店、ほったらかしにしてこの人は…

呆れながらも葵さんの状態を伝えた。

「そう、解ったわ。」

いそいそと厨房に向かう翔さんを横目にお客さんが帰ったテーブルの片付け、また酎ハイ作ってを繰り返していると葵さんが出て来た。目元が赤いような気がする。翔さんに帰りなさいって言われてショックだったとか?

「あの…大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。ごめんね。迷惑掛けちゃって…その…唇が…」

恥ずかしそうに口元を押さえ上目遣いで僕を見詰めた。あぁ、そういえば…

「あれはアクシデントみたいなものなので…僕は全然、気にしてませんから。」

「えっ…」

あれ?言い方が良くなかったのかな?でも葵さんが女の子ならこんは言い方はしない。僕が悪くなくても謝る。でも葵さんは同性だから…

「おっ、割と混んでんな。席、空いてるかぁ〜?」

常連の2人が入って来たので「お客さんが来たので僕、行きますね。」と葵さんに断りを入れてから客を席に案内した。そして注文を取って翔さんに伝え手早く生ビールとお通しを運び出来た料理は葵さんが持って行った。そうこうしてる間に僕のバイト時間は終わりを告げた。

「お疲れさま。はい、バイト代。」

人生初のバイト代に胸がじーんとした。これでiPodが買える。

「ありがとうございます。」

「こちらこそ助かったわ。寂しくなるけど今度は食べに来てね。」

多分、卒業するまで来ないと思う。竜宮先輩絡みはもぅ、御免だから。

「葵さんにも挨拶したいんですが…」

「今、葵ちゃんご贔屓の客が来てるから後で私が言っておくわ。」

接客の邪魔をするわけにはいかないよね。

「解りました。ありがとうございましたと伝えてください。ベストとズボンは…」

「記念にあげる。新しいバイト君は芝くんより背が低くて合わない…ていうかダーリンがぁ、鬼灯にハマっててぇ〜、着流しが良いって言うからぁ、髪型も変えてイメチェンするの。」

またワケの解らないことを…ま、僕には関係ないからどうでも良いけど記念品にはなるかも。

「では遠慮なく頂きます。ありがとうございました。」

感謝も込めて深くお辞儀した。

「ゆきにゃは真面目で仕事熱心な良い子だけど最後まで色恋に鈍かったわね。若いから仕様がないけど恋愛スキルをアップすれば良い男になれるわよ。」

バイトに色恋や恋愛スキルは関係ないのに。経験値が低いのは認めるけど翔さんみたいに節操なしにはなりたくないな。

「その辺は後々…ではこれで失礼します。」

「ええ、またね。」

軽く頷くと鞄を斜めに掛け裏口から出ると星が待っていた。

「お勤めご苦労さん。」

疲れも吹き飛ぶ星の笑顔も今日で最後。星にも感謝しなくっちゃ。

「毎日、迎えに来てくれてありがとう。」

礼を言われると思わなかったんだろう。目を見張ったあと照れ臭そうに「彼氏の務めだからな。」と笑った。

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あきゅろす。
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