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エビチュ

「煌星スマイル、頂き〜っ!」

いきなり携帯で俺を撮る不躾な女に作り笑顔が崩れそうになった。

「くっ…」

了解を取るとか断りを入れるとかしろよ!常識がないのか!?

「やだ、怒っちゃた?」

これで怒らない奴なんか…いや、落ち着け。相手は女だ。店の客だと思って対応しろ。

「すいませんが撮影は止めてください。」

嫌な客にも笑顔でやんわり注意する。接客業の基本だ。

「先輩だからって敬語なんて使わなくて良いよ。」

先輩だったのか。学年章は…2年か。バイトモードに切り替えて正解だった。とりあえず、逃げよう。また何をするか解らないし。

「先輩、俺達、用事があるので失礼します。芝、行くぞ。」

「え、あ、ちよっ…」

芝の腕を掴んで強引に歩かせた。

「星くん、芝くん、またね〜!」

もぅ、二度と声、掛けてくんな。

聞こえない振りして足早に立ち去った。

「ま、待って、星、歩くの早い。」

「あ、わりぃ。つい…」

速度を落としゆっくり歩いた。

「何、イライラしてんの?」

俺達のやりとり、見てなかったのかよ。なんかショック…って俺もあの女のせいで芝のこと見てなかったけど。

「性格の悪い嫌な先輩に辟易したっつーか…」

「人は見掛けによらないんだ。綺麗な人なのに…」

芝の口から出るとは思ってなかったから、足を止め正面から見据えた。

「お前、女が良いのか?」

普通はそうだろうけど…

「えっ?」

男なら可愛いくて綺麗な女を好むだろうけど…

「さっきの女にコクられたらOKすんのかよ?」

俺は性別に関係なく芝だから好きになったけど…

「俺を振って女に走るつもり…」

言い掛けてギクッとした。芝の表情が通常の何倍も冷めてて目つきも酷く冷たかったからだ。

「僕がどんなに悩んで答えを出したか…解らないほどお前は馬鹿なの?」

蔑んだ目がグサッと胸に突き刺さった。

「プレーを誉めてくれた人を蔑ろにする僕が好きならお望み通り振ってあげる。さようなら。」

俺の手を振り払うと無言で歩き出した。や、やっべぇ!!マジで怒らせちまった。

「し、芝、待ってくれ。」

急いで後を追い横に並んだ。試合後、嬉しそうに走って来てくれたのに口元、緩んでたのに。今は無表情で口元は固く結ばれ心底、怒っているのが解った。

「…ごめん。焼き餅、妬いてお前の気持ちを傷付けて…ほんと、ごめん。」

心から謝ったけど黙然としたまま。

…やっぱ、ダメか。

怒りには2種類あると思う。静かに怒るタイプと怒りを露わにするタイプ。芝は前者でバスケをしている時は後者だ。俺としては後者の方が扱いやすい。何故なら店の客は後者が多く言いたい放題言わせた後、宥めると大体、怒りがおさまるからだ。いずれにせよ、謝り倒すしかない。

「…ごめん。俺が悪かった。」

ひたすら謝り続けた。でも芝は黙々と歩き家に着くと自室に籠もってしまった。こうなると芝は頑なだ。ガキの頃、一度だけ大喧嘩した。何が原因だったかもぅ、忘れたけど一週間、口を聞いてくれなかった。その間、俺はメゲずに話し掛けた。芝が好きだったから。

…あん時は俺のしつこさに折れてくれたけど今回は相当、頭にきてるし…

「はぁ…」

芝の部屋の前で頭を抱えていると携帯が鳴り急いでポケットから出すと芝からのメールだった。


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