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エビチュ

後半が始まり俺は彼を徹底的にマークした。オールラウンダーの彼は身長も体格も俺と差ほど変わらない。けど俺が本気になれば決して負けない。勝つ為に日々、練習を重ねて来たから。

「はぁ、はは…漸く…マジになったな。挑発した甲斐があったぜ。」

荒い息遣いは俺のプレッシャーが効いている証拠。しかし表情には出さず不敵に笑う。

「ハルには手出しさせない。」

俺が動きを封じてる間、芝くんとハルの連携プレーで2点差になった。

「相棒想いだねぇ。泣けてくるわ。」

当たり前だ。それ以上の感情もあるけれど言えない。でもこれは言わないと…

「俺、お前のこと見下してないから。同情も馬鹿にもしてないから。」

真っ向から見据えて告げた。書店で会った日から、彼の目をまともに見たことはなかった。正面を向いてても焦点は合わさず視線は斜め横か上。その理由は…

「お前に怪我をさせてしまったこと俺、ずっと後ろめたく思ってた。だから会いたくなかった。怖かった。責められるんじゃないかって…」

ハルに近付けさせたくないっていうのは口実でお金を返さなくて良いっていうのは償いだ。

「じゃ、何か、俺を侮辱したんじゃなくて単に俺の面を見たくなかったってことか?」

問われて正直に頷いた。誤魔化すとまた誤解されそうだから。

「…マジか…くそっ…勘ぐりすぎてたのかよ。」

バツの悪い顔をして呟いた。

「言葉が足りなくて…ごめん。」

「謝るんじゃねぇ。俺の立つ瀬がねぇだろうが。つか、言えよ。馬鹿。」

「ごめん。あ、また、謝っちゃった。はは…」

「ヘラヘラすんな。お前がそんなだから…まぁ、良い。今日は勝たせてもらうぜ。」

俺の隙をつき素早く擦り抜けるとゴールに向かってダッシュした。

「くそっ、やられた!!」

透かさず後を追いかけゴール下でリバウンド勝負。脳裏に過ぎるトラウマは消しゴムで簡単に消せるもんじゃないし破り捨てることも出来ない。練習中も毎回の試合時も力を加減して相手を倒さないよう気を使っていた。だけど、此処で逃げてたら前に進めない。何時までも引きずったままじゃ俺は変われない。

「リバウンドーっ!!」

思いっ切りジャンプしてリングの縁から零れ落ちるボールに手を伸ばした。掴みたい。この手に。

「させるかっ!!」

俺を押し退ける彼に俺も渾身の力で押し戻し両手でボールを掴み取った。

「はぁ、はぁ…」

ボールの感触が手から脳に伝わる。

や、やった…

「シャーッ!!」

感極まって叫んだ。大きな壁を打ち破ったような爽快感が身体を駆け巡った。

「真人、いけーっ!!」

余韻に浸る間もなくハルの声に背中を押され相手ゴール目掛けて突進した。

「止めろーっ!!」

行く手を阻む敵を交わしゴール下へ切れ込みジャンプしてゴールの上から叩き付けた。瞬間、何かに引っ張られるような感じがして反射的にリングを掴んだ。

「な、何?」

振り向くと彼が俺のハーフパンツに手を掛けていて、ハーフパンツが脱げると同時に彼も落下した。一瞬の出来事でも俺にはスローモーションのように見えた。ハーフパンツを握り締めたまま、うつ伏せに倒れている彼はそれはそれは無様で俺もパワータイツを着用してなかったら、とんだ赤っ恥をかかされていたわけで…まぁ、これでも十分、恥ずかしいけど。

「よっと…」

リングから手を離し着地した。静まり返る体育館。観戦していた生徒達は唖然としてる。だが、しかし1人が噴き出すと一斉に笑い出した。

「ダッセ〜っ!!」

「ぎゃはは〜っ、マジ、ウケる〜!!」

「掴むのはボールだけにしろよ〜!」

皆は笑うけど彼は彼なりに必死だったんだ。俺を止めたい一心で…

「大丈夫か?」

声を掛けると無言で立ち上がり俺にハーフパンツを返した。顔面強打と羞恥心で耳まで赤くなっている。

「ワ、ワザとじゃねぇからな。」

ワザとだったらこんな醜態、晒すわけがない。もっと上手くやるだろう。

「…うん。」

ハーフパンツを履き審判に目をやると慌ててホイッスルを鳴らした。無論、反則行為で彼はファウルを取られ俺は所定の位置からシュート。それで逆転。残り30秒はディフェンスに集中した。僅か一点差だけど相手は戦意消失、特に彼は憔悴しきってて見ていて可哀想になるくらいだった。そして終了のホイッスルが鳴り俺達の戦いはうちの勝利で幕を閉じた。

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あきゅろす。
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