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エビチュ

「…ったく…ツいてないな。」

タイミングが悪かった。抑えることが出来なかった。止められなかった。こんなこと今までなかったのに…

「もしかして…」

マグロが原因?マグロには快楽物質が含まれていたとか?だからマコ先輩は最初はマグロで良いって言ったのかも。

「失敗した…最悪…」

事前に確認しとけば…って今更、悔やんでも仕様がないけど…

「とりあえず、着替えなくっちゃ…」

ティシュで拭いて下着を取り替えズボンを履いた。汚れた下着は丸めて。それを見たら間抜けすぎて笑えた。でも直ぐに溜め息に変わった。好きな人に股間丸出しのあられもない姿を見られて漫画で抜いていたのもバレて変態ヤローだと思ってる。今頃、僕を軽蔑してる。

「っ…」

嫌われた。別れを告げられる。そうなったら、もぅ、一緒に暮らせない。

「…うぅ…っ…」

泣くな。泣いたって時間は戻らないし星の記憶を消せるわけでもない。やってしまったことはどうにもならない。なのに…

「芝、出て来いよ。」

「っ!?」

星の声に思わずドアノブを握った。出ていける状態じゃない。泣き顔も見られたくない。

「出て来ないつもりか?」

出ていけるなら、とっくに出て行ってる。僕があっけらかんとした性格だったら「変なとこ見られちゃったなぁ〜、今度から気を付けるわ。」って笑い飛ばす。けど僕はそういうタイプじゃない。どんな顔すれば良いのか…何を話せば良いのか解らない。

「ちっ。出て来ないなら無理やりでも…」

ドアノブに手を掛ける音にギョッとして力を込めた。

「おい、芝、開けろ。」

入って来て欲しくないから開けないんだよ。

「この…いい加減にしろ!」

ガチャガチャとドアノブを回す星にイラッとした。何で解ってくれないんだよ!?何で放っておいてくれないんだよ!?

「わーった。勝手にしろ。」

冷たく言い放たれ胸がズキっと痛んだ。そんな言い方しなくても…っ…また涙が出てきた。

「…と油断させてからの〜」

勢い良くドアが開き前のめりに倒れそうになった。その時、星が僕を受け止めた。

「へへ…騙されてやんの。」

見上げると星がにやけ顔で僕を見下ろした。でも一瞬で驚きの表情に変わった。

「芝…お前…」

何、驚いた顔してんだよ?さっきまでニヤニヤしてたじゃないか?

「泣いたのか?」

星の言葉にギクッとした。見られた。みっともない顔、見られてしまった。

「…離して…」

両手で星の胸を押し退け背を向けた。すると透かさず背後から抱き締めた。逃亡は許さないってことか。

「涙の跡が残ってる。目も赤くなってた。まさか、マグロにあたって腹が痛いのか?」

食べかけのマグロをそのままにしていたのを思い出した。

「ち、違っ、あ、あれは…」

説明するのは恥ずかしい。かといって病院に連れて行かれても困るし腹痛の薬は飲みたくない。何か良い言い訳を…

「芝、どうなんだ?腹が痛いのか?」

僕の顔を横から覗き込んで心配顔するから「ほっといて!」と突き放すわけにもいかなくて…

「…マグロは…関係ない。」

顔を背けると「じゃ、泣いてた理由を話せ。」と強い口調で言った。やっぱ、そうくるよね。星が泣いてたら僕も問い質す。それで誤魔化されたらムカつく。適当なこと言われたら腹が立つ。だけど臆病な僕は予防線を張った。

「…引かない?」

「え?」

「本当のこと言っても引かないのかって聞いてんの。」

星の顔は解らないけど、きっと当惑した表情してんだろうな。

「引く引かないは別として、粗方、予想は付いてる。ただマグロが気になった。お前、刺身とかカルパッチョとか苦手だろ。何で食べたのか…それだけは見当が付かない。」

予想してるなら「その通りだよ。」って一言で終わるのにマグロからだと最初から話さないといけなくなる。イヤだな。


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あきゅろす。
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