エビチュ 5. 「海老根、お前、何処でサボってたんだ」 「すいません…屋上で寝てました。」 ははっと笑うと担任は呆れ顔で溜め息を吐いた。 「伊勢谷が探すとか言って引き止める間もなく早退したぞ。ったく、困った奴だ。」 「え゛っ!?」 あの阿呆… 「後で連絡してやれ。」 「はぁい。んじゃあ、俺、帰りまーす。」 「ちょい待て。お前は罰として俺の雑用をしろ。」 「えぇっー!?」 「えーじゃあない。学生は勉強が仕事だ。その仕事を蔑ろにしたんだ。罰を受けるのは当然だろうがっ。」 「はぁ…」 「何だ?その気の抜けた返事は?大体、居眠りをするとゆうのはだな、気が弛んでる証拠で…」 ブツブツ文句を言い出した。 あちゃ… やぶ蛇だぁ… 「センセーの手伝い喜んで引き受けます!」 ビシッと敬礼したら担任は腕組みをして頷いた。 「うむ。良い心掛けだ。では、早速、プリントの整理をしてくれ。」 机に山積みの束に泣きそうになってしまった。 その後はやれ戸棚の掃除だ、ファイリングだ、仕分けだと散々、こき使われて学校を出たのは6時を過ぎていた。 「ふぇ…疲れた。」 あ、そうだ。伊勢谷に連絡しないと… 携帯の電源を入れるとメールと着信。 「ヤバっ…めちゃ入ってる。」 急いで伊勢谷に電話したけど出ない。 「しゃーねぇ。伊勢谷んちに行ってみよう。」 家に帰らず、伊勢谷の家に行った。 「あら、海ちゃん、どうしたの?」 お姉さんに事情を説明したらまだ、帰ってないと言われた。 何処をほっつき歩いてんだ?って、俺が悪いんだけど。 「帰って来たら、連絡するわ。」 「うん。」 伊勢谷のことは気になるが俺まで探すとすれ違ってしまうかもしれない。此処はとりあえず家に帰って連絡を待とうと思い自宅に向かった。 …うぅっ。さむっ。 何時もいる奴がいないだけでこんなにも傍らが寒いなんて…。 「早く仲直りしよう…」 そう思った矢先、目前に人影が見えた。 もしかして… 走って行ったら家の前で伊勢谷が膝を抱えて座っていた。 「伊勢谷…」 声を掛けたけど返事がない。 「おい、伊勢谷ってば!」 肩を揺すったら漸く顔を上げた。 「あっ…海老根…」 寝ぼけ眼で俺を見る。 「おまっ…寝てたのか!?」 この寒空の下で… 「何時から居たんだ!てか、風邪引いたらどうすんだ!」 「平気だ。」 ゆっくり立ち上がると俺を抱き締めた。 「良かった…。」 安堵の溜め息を吐く。その身体は凄く冷たくて、頬に触れるとすっかり冷め切っていた。 「探しても見つからなくて…此処で待ってたら会えると思った。」 だからっていつ帰るか解らないのに…ズキンと胸が痛くなった。 「昼休み終わったの気付かなくて屋上で寝てたんだ。」 「あぁ。屋上は見落としてた。」 「兎に角、家に入ろう。」 冷たくなった手を掴んで家に入ると父さんが急いで出てきた。 「海ちゃん、伊勢谷くん が…」 「父さん、何?」 俺と伊勢谷を見てクスッと笑った。 「伊勢谷くん、海ちゃん帰って来て良かったですね。寒かったでしょう?お風呂の用意出来てますよ。」 父さんの言葉に俺はハッとした。知ってたんだ。伊勢谷が外で待ってたことを。ったく父さんに心配掛けやがって。って俺が悪いのか…。 「伊勢谷、風呂、入るぞ。」 「一緒に?」 「文句ある?」 首を横に振る伊勢谷の腕を引っ張って浴室に行くと服を脱がせて俺も脱いだ。 ちゃぽん… 向かい合って湯船に浸かった。 「あのさ…」 「ん?」 「色々ごめん。」 屋上で寝てたことと朝のことを含めて謝った。 「素直だな。」 俺の顎を掴んで軽くキスをした。 「うん…なんか昔のこと思い出してさ…」 「昔?」 「ガキの頃のこととか母さんのこととか…人には限られた時間があるじゃん?」 「そうだな。」 「なのにくだらないことで喧嘩して時間を無駄にしてるなぁって…」 今度は俺からキスをした。 「海老根?」 俺からキスをすることなんてヤってる時以外、殆どないから伊勢谷は目を見張った。 「その…今夜…泊まれよ。仲直りしょ?」 抱いてとかエッチしようとかあからさまに言えない俺。赤くなった顔で解るよな? 「…参った。此処で襲ってしまいそうだ。」 湯船の下からムクムクと立ち上がる。 「わわっ!?ま、待て!父さんが居るし、飯、食ってからにしろよ!」 「確かに腹、減ってたらバテるな。」 「そうそう。明日は休みだし、ゆっくりしようぜ?」 「海老根がそうゆうなら…」 「伊勢谷くん、着替え、私のを置いときますから着てくださいね。それとお家には泊まると連絡しときましたから。」 父さんがドア越しに告げると伊勢谷は「ありがとうございます。」と言った。 泊まるって… 俺達の会話を聞いてたのか!? うわっ… 恥ずかしいっ! 「海老根?」 「い、伊勢谷、サッサと洗えよ!」 「あ、あぁ。」 伊勢谷は湯船から出ると身体を洗い始めた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |