エビチュ 5 アパートの前に行くと芝が俺を部屋に案内してくれた。 「狭いところですいません。適当に座ってください。」 綺麗に片付けられた和室は6帖ぐらいだったが物が少ないせいか狭く感じなかった。 「烏龍茶で良いですか?」 「悪いな。」 キッチンは流石に狭く冷蔵庫と食器棚でギリギリ。他に部屋が2つか。 「どうぞ。」 テーブルに烏龍茶を置き俺の正面に座った。 しーん… ん?俺から話した方が良いのか? てっきり芝から「相談って何ですか?」と単刀直入に聞いてくると思っていた。案外、緊張してるのかもしれない。畏まり正座して俯いてる。此処は俺から… 「あ、あの!」 いきなり身を乗り出す芝にビックリして、たじろいだ。 「な、なんだ?」 「す、すいません。」 もとの位置に戻ると下を向いたまま黙ってしまった。この沈黙は気まずいな。話を始めないと… 「芝、お前、星と何処までいってる?」 「えっ!?」 質問が不味かったのか顔を上げたまま固まっている。 「不躾で悪かった。実は真人とキスより先に進めてない。その先の方法とか手順とかあれば教えて欲しい。」 「あ、あぁ…そういうことですか…僕はバスケの相談かと…何だ…緊張して損した。」 拍子抜けしたのか足を崩し烏龍茶を一口、飲んだ。 「もしかして俺がバスケを辞めと思ったのか?」 「ええ、まぁ…前例がありますし…」 痛いとこ突くな。 「大丈夫だ。バスケは辞めない。」 「それを聞いて安心しました。で、僕と星の何を聞きたいんですか?」 二度も言わせるな。って言わないと此処に来た意味がなくなる。とりあえず、烏龍茶で喉を湿らせ本題に入った。 「お前達が何処までいってるか聞きたい。俺達はキスまでだ。」 「あ、あぁ…そっち系ですか…」 フレームを手で隠しながら「僕達もキスまでです。」と小声で答えた。 「それ以上は?一緒に暮らしてて何もないのか?寝込みを襲われたとか…」 「なっ、ないですよ!」 隠れてない部分が赤く染まり指が震えている。俺が思うよりも芝は純情なんだな。 「だ、大体…練習ばっかで…疲れ果てて…星は夏休み中…朝から晩までバイトで…てか男同士で…何をするんです?」 「それを…まさか、お前も知らないのか?」 小さく頷く芝に俺は肩を落とした。 期待してたのに…レベルが俺と同じだったとは… 海老根に誤解されたくないから、伊勢谷には聞けなかった。2人でこそこそ話してたら、また海老根を不安にさせてしまうかもしれない。傷付けてしまうかもしれない。泣かせてしまうかもしれない。だから芝に相談するのが一番だと思った。なのに… 「無駄足だった…か。」 溜め息まじりに呟くと芝が「先輩、これがあります。」とテーブルの上に紙袋を置いた。 「なんだ、これ?」 「インハイ前にマコ先輩から恋愛マニュアル本を借りてたんです。忙しくて読む暇もなく忘れてました。」 真人の奴、恋愛マニュアル本なんか持っていたのか。だったら何故、実行しないんだ? 「正直、桜先輩はマコ先輩ほど本気じゃないと思ってました。あの時も流されて…あ、すいません。」 傍目からみればそう思うのも当然だろう。俺だって違うとは言い切れない。でも解ったんだ。 「真人が他の奴と付き合うのは嫌だ。触れるのも優しくするのも笑い掛けるのも俺だけで良い。真人の隣は俺の指定席だから…」 言ってて恥ずかしくなり口を噤んだ。 「桜先輩って可愛いですね。」 俺が可愛い? 「お前の方が可愛いと思うが…」 「へえぇ!?」 素っ頓狂な声を上げると狼狽えた。 「ぼ、僕が…か、可愛いわけが…」 「そうでもないぞ。今だって十分、可愛げがある。」 真面目に言ったら顔面が見る見るうちに真っ赤になった。ほら、やっぱり可愛い。 [*前へ][次へ#] [戻る] |