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エビチュ

アパートの前に行くと芝が俺を部屋に案内してくれた。

「狭いところですいません。適当に座ってください。」

綺麗に片付けられた和室は6帖ぐらいだったが物が少ないせいか狭く感じなかった。

「烏龍茶で良いですか?」

「悪いな。」

キッチンは流石に狭く冷蔵庫と食器棚でギリギリ。他に部屋が2つか。

「どうぞ。」

テーブルに烏龍茶を置き俺の正面に座った。

しーん…

ん?俺から話した方が良いのか?

てっきり芝から「相談って何ですか?」と単刀直入に聞いてくると思っていた。案外、緊張してるのかもしれない。畏まり正座して俯いてる。此処は俺から…

「あ、あの!」

いきなり身を乗り出す芝にビックリして、たじろいだ。

「な、なんだ?」

「す、すいません。」

もとの位置に戻ると下を向いたまま黙ってしまった。この沈黙は気まずいな。話を始めないと…

「芝、お前、星と何処までいってる?」

「えっ!?」

質問が不味かったのか顔を上げたまま固まっている。

「不躾で悪かった。実は真人とキスより先に進めてない。その先の方法とか手順とかあれば教えて欲しい。」

「あ、あぁ…そういうことですか…僕はバスケの相談かと…何だ…緊張して損した。」

拍子抜けしたのか足を崩し烏龍茶を一口、飲んだ。

「もしかして俺がバスケを辞めと思ったのか?」

「ええ、まぁ…前例がありますし…」

痛いとこ突くな。

「大丈夫だ。バスケは辞めない。」

「それを聞いて安心しました。で、僕と星の何を聞きたいんですか?」

二度も言わせるな。って言わないと此処に来た意味がなくなる。とりあえず、烏龍茶で喉を湿らせ本題に入った。

「お前達が何処までいってるか聞きたい。俺達はキスまでだ。」

「あ、あぁ…そっち系ですか…」

フレームを手で隠しながら「僕達もキスまでです。」と小声で答えた。

「それ以上は?一緒に暮らしてて何もないのか?寝込みを襲われたとか…」

「なっ、ないですよ!」

隠れてない部分が赤く染まり指が震えている。俺が思うよりも芝は純情なんだな。

「だ、大体…練習ばっかで…疲れ果てて…星は夏休み中…朝から晩までバイトで…てか男同士で…何をするんです?」

「それを…まさか、お前も知らないのか?」

小さく頷く芝に俺は肩を落とした。

期待してたのに…レベルが俺と同じだったとは…

海老根に誤解されたくないから、伊勢谷には聞けなかった。2人でこそこそ話してたら、また海老根を不安にさせてしまうかもしれない。傷付けてしまうかもしれない。泣かせてしまうかもしれない。だから芝に相談するのが一番だと思った。なのに…

「無駄足だった…か。」

溜め息まじりに呟くと芝が「先輩、これがあります。」とテーブルの上に紙袋を置いた。

「なんだ、これ?」

「インハイ前にマコ先輩から恋愛マニュアル本を借りてたんです。忙しくて読む暇もなく忘れてました。」

真人の奴、恋愛マニュアル本なんか持っていたのか。だったら何故、実行しないんだ?

「正直、桜先輩はマコ先輩ほど本気じゃないと思ってました。あの時も流されて…あ、すいません。」

傍目からみればそう思うのも当然だろう。俺だって違うとは言い切れない。でも解ったんだ。

「真人が他の奴と付き合うのは嫌だ。触れるのも優しくするのも笑い掛けるのも俺だけで良い。真人の隣は俺の指定席だから…」

言ってて恥ずかしくなり口を噤んだ。

「桜先輩って可愛いですね。」

俺が可愛い?

「お前の方が可愛いと思うが…」

「へえぇ!?」

素っ頓狂な声を上げると狼狽えた。

「ぼ、僕が…か、可愛いわけが…」

「そうでもないぞ。今だって十分、可愛げがある。」

真面目に言ったら顔面が見る見るうちに真っ赤になった。ほら、やっぱり可愛い。

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