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エビチュ
10
バイトが休みだと色々、考えてしまう。思いを巡らせてしまう。それを阻止する為に耳から曲を流しているのに脳は音を排除する。それに伴い心も追随する。こうなると音楽自体がノイズになる。

「…くそっ。」

停止ボタンを押してイヤホンを取った。その時、耳元で「どうしたの?」と囁かれビクッとした。

「あ、甘木さん!?」

思わず耳を押さえ後退りするとクスッと笑われカッと赤くなった。不意打ちセクシーボイスは止めて欲しいんですけど。

「何か用事ですか?」

「仕事がね、やっと終わったからお茶でも飲もうと思って。」

相変わらず酷い顔色だけど表情が和らいでる。間に合って良かった。

「お疲れさまです。珈琲でもいれましょうか?」

「珈琲より…」

〜♪』

甘木さんの言葉を遮り携帯が鳴った。

「すいません。」

携帯を手に取ると画面に芝の名前が表示されていて直ぐに押した。

「芝、どうした?」

突然だったから声が上擦ってしまった。

『あ、あの…今、話せる?』

『あぁ。大丈夫…ちよっと待ってくれ…甘木さん、何ですか?』

Tシャツを引っ張る甘木さんに怪訝な眼差しを向けた。

「星くん、棚の上の缶を取ってくれない?俺じゃ、取れないんだ。」

急ぎじゃないなら邪魔しないで後にしてください…って言い方は冷たいか。

「はい…っと…あ、甘木さん!?」

いきなり脇腹をさすられ鳥肌が立った。

「星くんって此処、弱いの?」

弱いとかそういう問題じゃなくて何故、今、触るんだ!?

「ち、ちがっ…今、電話中で…や、やめっ…」

くすぐったさに携帯を落としそうになり持ち替えたら電話が切れた。

「や、やばっ!!」

すぐさま掛けなおそうとしたが携帯を取られてしまった。

「甘木さん?」

「悪いけど先に取ってくれない?取るだけで良いから。」

芝がせっかく電話をくれたのにあんな切り方してしまって謝らないと…

「でも…」

「お願い。」

そんな訴えるような目で切なげな声で頼まれたら無碍に出来ない。

「…解りました。何処にあるんですか?」

甘木さんが指差す方向に目をやると食器棚の上に缶があった。

何であんな所にあるんだ?仕事明けに飲む特別な紅茶とか?

俺でも届きそうにないので椅子の上に乗り缶を手にした瞬間、割れる音がして振り向くと床にカップの欠片が落ちていて甘木さんが手を押さえいた。

「大丈夫ですか!?」

椅子から下り近寄ると血が滴り落ちた。

「…っ…寝不足で手が滑って…」

近くにあったタオルで指を押さえた。

「救急箱は?」

「リビングにあると思うんだけど…探してきてくれる?」

「リビングですね。待っててください。」

キッチンから出てリビングに行き棚や引き出しを見て回った。

「…ないな。あと探してないのは…ん?」

テーブルの下に何かある。屈んで見ると救急箱があった。

「何でこんなところに…」

いや、今はどうでも良い。早く手当てしなくては。

急いで戻り切れた指先を消毒して絆創膏を貼った。

「あまり深くないし左手で良かったですね。」

「あ、うん。ごめん。
電話中に悪戯して…ごめんね。」

済まさなそうに頭を垂れるから怒れなくなってしまい「二度としないでください。」と注意して床に散らばった欠片とカップを新聞紙で包み紅茶をいれた。

「甘い香りですね。」

「アプリコットだよ。これを飲むと仕事が終わったって実感出来るんだ。」

達成感と解放感に満ちた顔で微笑む。甘木さんにとってこの行為は気持ちを切り替える為に大切なことなんだろう。

「俺は部屋で飲みます。」

カップと携帯を手にいそいそと自室に入り芝に電話したがアナウンスが流れ間違えたかと思い何度も掛けたが繋がらなかった。

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あきゅろす。
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