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エビチュ
15
試合開始から約1時間。僕はコートの中で攻めきれず、まごついていた。

「くっ…」

ボールは携帯でリングはボタン。行動に移せないまま時間だけが過ぎていく。メールは重くならないよう『星の好きと僕の好きは同じだからまた、一緒に暮らそう。』にした。

「…後は押すだけ。」

果たしてこれで僕の想いは伝わるのだろうか?

不安に駆られ中々、決心が付かない。かといって電話は緊張するし。

「メールを送って電話をする…というのはクドいよな。」

うーん…メールか電話か2つのうち一方を選ばなきゃ。

「僕が星なら…」

文字の「好き」より声の「好き」の方が実感出来るから電話して欲しい。自分がして貰いたいことを相手にした方が良いよな。

「よし!」

自分に気合いを入れ電話のボタンを押した。

ドキドキ…

携帯を持つ指が震える。
コール…1、2…5回で星が出た。

『芝、どうした?』

「あ、あの…今、話せる?」

『あぁ。大丈夫…ちよっと待ってくれ…甘木さん、何ですか?』

星の声と甘木さんの声が聞こえた。

『星くん、棚の上の缶を取ってくれない?俺じゃ、取れないんだ。』

耳障りな声。イラっとする。星より低いからって甘えんな。椅子使えっつーの。

『はい…っと…あ、甘木さん!?』

んっ?焦り声?

『星くんって此処、弱いの?』

なっ!?何処、触ってんだよ!?

『ち、ちがっ…今、電話中で…や、やめっ…』

プチっと電話が切れた。

「な、何だ!?」

この意味深な会話…これって…

ふと斎藤の言葉が頭に浮かんだ。

『年上はエロいからなぁ。手取り足取り優しく教えてくれるし、あ〜、勃起しそう〜。』

ヤ、ヤバい!ヤバい!!

慌てて部屋を出ようとして、はたと気付いた。

「甘木さんちって何処だろう?」

携番は知ってても住所は解らない。どうすれば…
こうしている間に星が甘木さんに迫られてるかもしれない。嫌がる星を押し倒して無理やり…

「くそっ…何か手立ては…家が解れば苦労しないのに…」

焦りと苛立ちに部屋をウロウロしていたら携帯が鳴り相手を確認しないまま出ると甘木さんだった。

『会話の途中だっただろ?』

『な、何故、僕の番号を…』

『解らない?』

悪い予感に携帯を握り締めた。

「も、もしかして…星に頼まれたんですか?」

『ふっ。察しが良いね。彼、今、風呂に入ってるんだ。俺も入るつもり。この意味、解る?』

そ、それって…2人はそういう関係ってこと?

「星は…アナタを選んだんですか?」

『そっ。だからね、もぅ、電話してこないでね。』

「う、嘘だ…信じない…」

『嘘だと思うなら彼に確認すれば?君にその度胸があるなら。じゃあ。』

電話が切れても僕は指、一本も動かせなかった。嘘だと思いたい。確認したい。けれど「そうだ。」と肯定されたら僕は…

「…諦めるしかないじゃないか。」

競り合っていたのに最後で相手がゴールを決めてしまった。体内の熱がすーっと冷めていく。ホイッスルが耳奥で鳴り響く。

「…負けた。」

僕は敗北感に平伏した。伝えたかった言葉は空中を彷徨い絶望は身を切り裂く。

「っ…ぅう…っ」

もう…星は帰って来ない。

「あぁ…ぁああ…っ…」

もう…二度と…この部屋で暮らすことはない。答えを出すのが遅過ぎたんだ。泣いても後悔しても時間は巻き戻らないし移ろいだ心を取り戻す術もない。それでも悲しくて、やるせなくて涙が止まらなかった。

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