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エビチュ
12
風邪で休んだ日、僕は恋というものを初めて覚えた。

だが、しかし。

お粥を食べた後、薬のせいで睡魔に襲われ気が付けば星は居なかった。洗い物で溢れていた台所。脱ぎ散らかした服。雑誌やゴミ。全て綺麗になっていた。なのにお礼も話しも出来なかった。

熱も下がったし明日、学校でありがとう。って言おう。と思って登校したけど星の姿を視界に捉えた瞬間、脈は激しくなり顔面は引きつり何も言えないまま席についてしまった。

僕ってこんなに意気地がなかったのか?

窓際の星をチラッと見ては視線を戻し、またチラ見して嘆息を漏らした。半袖のシャツから出た腕が逞しいとか長い指先で髪を掻き上げる仕草とか凛とした横顔とか…兎に角、今まで気付かなかったのが悔やまれるくらいカッコ良い。

「はぁ…」

恋を知り前に進めると思っていたのに進むどころか後退してる。

「…恋って難しい。」

ペンを回しながら呟くと斎藤が「なに、なに、恋してるの?」と興味津々顔で話し掛けてきた。

「バスケ脳の芝くんが恋に目覚めちゃった?」

エロ脳には言われたくないってーの。

「んで、誰なんだよ?同級生?上級生?後輩?それともまさか人妻とかいう?」

人妻は有り得ないだろ。

「人妻は良いよなぁ〜。童貞にも優しそうだし手取り足取り教えてくれそうだし。AVの人妻なんか最高だぜ。あ〜、勃起しそう〜。」

エロ妄想は女子にドン引きされるって解ってないのか?

「斎藤、女子の視線が気にならないの?クソ虫をみるような目で見られてるでショ?」

「え゛ぇ!?マジ!?」

斎藤がキョロキョロすると陰口を叩いていた女子は席を立ち斎藤から遠退いた。

「うわぁ…地味に傷付くわ。」

当たり前だっつーの。

「やっぱタメより年上が良いよなぁ。」

年上…

「はっ、何処が良いんだよ。年上なんか上から目線でしたり顔で余裕こいててムカつくけど。」

「そぉかなぁ。年上ってエロいじゃん。」

あの人、星を誘惑してるんじゃ…

「色気とか色香とか…ムンムンって感じでさぁ…」

斎藤の言葉に回していたペンを折った。星が甘木さんに靡くとでも言いたいの?

「な、何か俺、気に障ること言った?それとも年上に恨みでもあんの?」

恨みじゃない憾むだ。

「違う。けど違わない。」

「どっちなんだよ?」

「さぁ?」

しらばっくれると斎藤は「何なんだよ?意味解んねぇ。」と口を尖らせた。友人の枠にも入ってないただのクラスメートになんか話すつもりは毛頭ない。唯一、相談しても良いと思う人はマコ先輩と桜先輩だけ。彼らは僕の尊敬する先輩だから。

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