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エビチュ

玄関に並べていた靴は僕のしか残ってなくて慌てて星の部屋に入るとテーブルと布団が消えていた。その上、パイプハンガーに掛けていた服も机のパソコンも趣味で集めたCDも教科書も鞄も無くなって、あるのはベッドと机のみだった。あまりに突然で頭が真っ白になり、ふらつきながら壁に手を付きうなだれた。

「…そ、そんな…ウソ…だろ?」

呟いたその時、ポケットの中の携帯が鳴り急いで取り出し画面を見たら星からのメールだった。

『知り合いの家に厄介になることになった。家賃は今まで通り、俺の分は振り込んでおく。じゃあな。』

素っ気ない文章は僕に対する優しさなのかもしれない。でも僕は僕なりに悩んで考えて、そして桜先輩とマコ先輩を見て、もう一度、話し合いたいと思った。エゴだとしても、どうにかしたかった。

「こんな…あっさり…終わってしまうのか?」

星と友達になった頃は何となく喋って何となく一緒に遊んだ。高学年になると僕はバスケクラブに入り星は音楽クラブに入った。バスケを選んだ理由は人数が多いからサボれると思ったからだ。しかし、やってるうちに楽しくなってハマった。強くなりたい。もっと活躍したい。人より懸命に頑張ったら努力は僕を裏切らなかった。

「芝、お前、すげぇな。シュートバンバン決めてカッコ良かったぜ。」

試合を観戦してた星が興奮気味に僕を褒めそやした。

「あれくらい、大したことないよ。」

ワザと冷めた言い方をしたのは照れくさかったから。だけど星の言葉は僕を更にやる気にさせた。試合に勝った時は喜んで負けた時は自分のことのように悔しがった。

嬉しいな。僕の気持ちを解ってくれるんだ。

共感を覚えた僕は心の壁を取り払い星に何でも話すようになった。一緒に暮らし始めてからは星の作る料理を食べてお気に入りの音楽を聞きながら1日の出来事を話した。たった半年だったけど楽しかったし星が居てくれて良かったと心から思った。でも星は僕を置いて行ってしまった。

あの日々はもぅ戻らない。

そう思うと胸が張り裂けそうなくらい痛くて涙腺が崩壊した。

「…っぅ…あ、あぁ…」

星を失うことがこんなに悲しいなんて…こんなに切ないなんて…

「うぅ…あっ…っ…」

取り戻せるなら取り戻したい。星は僕にとって特別だから…

「…えっ…?」

今、僕、特別って思った?

「…何で…?」

星のこと特別って思ったんだろう?特別は他の人とは違うって意味で…それって…

「どういうことなんだ?」

独り言に返事が返ってくるはずもなく自分で答えを出そうと頭を働かせたら涙は止まった。

特別は誰にでも適用されるわけじゃなくて星だから特別なわけで…星は親友で友達の中の一番。特別とは違う。なら星の何が特別なんだろう?僕にとっての特別は何?

考えれば考えるほど纏まらなくて脳がオーバーヒートした。

「ダメだ。自分じゃ導き出せない。」

よれよろと立ち上がり頭をクールダウンさせる為に冷水を浴び身体を洗ってパジャマに着替え寝床に入った。

「…眠れない。」

と思ったけど目を閉じたら意識は沈み次に目を開けると朝になっていた。

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