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エビチュ

「星くん、またあとで。」

「ホッシー、バイバイ〜。」

フロアーを歩き始める2人に周囲の視線が集中し慣れているのか平然と進む。街中ならナンパされそうだな。

『嫌いな振りして俺を振り向かせてみれば?』

ふと甘木さんの言葉が頭を過ぎった。

「俺に気がある?」

…わけないか。真に受けて恥をかくのは俺だし。気にしないでおこう。

それから約4時間、在庫チェック、荷出しと接客をして21時に休憩に入った。

「コンビニで何か買ってくるか。」

エプロンを外し裏口から出た瞬間、甘木さんに腕を掴まれた。

「待ってたんだ…」

「お、俺を?」

「またあとでって…言ったよね?」

腕を引き寄せ耳元で囁く声音は尾てい骨に響いた。

な、何だ!?この状況はっ!?

「星くんってさ…付き合ってる人、いる?」

「え?」

「俺、今、フリーなんだ。俺じゃ…ダメ?」

唇が触れそうなくらいの距離に驚き思わず後ろにジリジリと下がった。

「ち、ちよっ、まっ…まって…」

「そう狼狽えないで試しに俺とヤってみない?」

ヤるって何を?

「俺、上手いよ?」

甘木さんは俺より年上で経験豊富そうだけどいきなりそんなことを言われても混乱するっつーか困惑するっつーか…

「あ、あの…」

躊躇している間に唇を奪われたが直ぐに離れた。

今、俺…この人と…

咄嗟に唇を拭った。

「舌、入れるキス…してみない?」

「し、舌っ!?」

ディープキスなんかしたら流れに流され取り返しのつかない状態になる。

「え、遠慮します。」

「そぅ…残念。」

俺の答えが予想どおりだったのか声は残念そうじゃなかった。これも大人の余裕ってやつか。

「すいません。時間ないんで、失礼します。」

甘木さんに背を向け表通りに出るとコンビニに向かった。あの人にとってキスくらい大したことじゃないのかもしれない。あれだけの容姿ならノンケ男もその気になるだろう。でも俺は好きな相手としかしたくない。

「…って…出来ねぇよな。」

見返りを期待してアイツの面倒をみているんじゃない。俺がやりたいからやっているんだ。バスケだけに打ち込んで欲しいから。普段は人間くさくないのに体育館では本能を剥き出し野生の獣に変化する。冷めた目つきは闘争心に燃え上がり初めて目の当たりにした時、俺は高揚と興奮を覚えた。

この瞳に見詰められたい。捕らわれたい。

「男に恋なんて…未来もクソもねぇ…不毛だ。」

解っていても傍に居たくてアイツに付いて行った。たとえ報われることがなくても。

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