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エビチュ

「ち、ちよっ…気持ち悪いってば。」

慌てて星から離れ赤くなった顔を隠すようにフレームを押し上げた。

「黙ってるから聞こえてねぇのかと思って。」

嘘付け。目が笑ってる。僕の耳は地獄耳なんだ。ドアの向こうの話し声だって聞き取れる。だから桜先輩とキャプテンの話を聞くことが出来た。

「どうしてそんなに聞きたがる?」

「気になったから。」

「あぁ、気になったことは確かめないと気が済まないんだっけ。面倒くさいね。」

「お互いさまだろ。言っとくけど嘘を付いてもバレるぞ。」

付き合いが長いとこれだから困る。

「はぁ…解った。話すよ。」

仕方なく昨日の出来事を話した。

「何だ、それだけか?」

期待外れの顔と呆れ口調にカチンときた。

「五月蠅いな。僕にとっては重大なんだ。」

今までの言動は心の裏返しでツンツンしてたのは僕を意識して欲しかったからで。それがバレてしまったんだ。どんな顔して会えばいいやら…

「開き直って何時もどおり憎まれ口叩けば良いんじゃね?向こうは忘れてるかもしんないし。」

有り得ないわけじゃない。桜先輩は練習中や試合以外はぼーっとしてるから。

「ほら、弁当。急がないと遅刻する。」

「ご、ごめん…」

って何、僕が謝ってんだ?ムカつく。

「遅刻したらお前のせいだ!」

弁当を奪い取り鞄に入れて走り出すと星も走り出した。

「はぁ、はぁ…」

遅刻ギリギリで教室に入り席に着いた。今日は朝練ないからゆっくり登校出来ると思ったのに。これも星のせいだ。詮索するのも干渉するのも止めて欲しい。なんて言ったらアパートを出て行くだろう。1人で家賃と光熱費を払うとなれば僕もバイトしないと親に悪いしそれじゃ本末転倒だし。僕がわざわざ、この学校に来たのは2人とバスケがしたかったからだ。中学の時、全中大会で彼らの試合を目の当たりにした。

「おお〜っ!!見たか!牡丹のアリウープ!!すげぇ〜!」

「桜が絶妙なタイミングでパスしたから成功したんだよ。」

「でも他の奴らが足、引っ張ってるから点差が縮まらないぜ。」

「こりゃあ、牡丹桜も散ったな。可哀想〜。」

部員達の会話に僕は心中で2人に同情した。惜しいなぁ。フォームは完璧。テクニックもスピードもずば抜けてる。なのにそれを全く生かせてない。県予選を勝ち抜いても全国じゃ通用しない。幾ら2人が健闘しても敗退は確定だ。凡庸な部員にイライラしてんだろうなぁ。腹が立ってるんだろうな。

そう思っていたら、偶然、廊下で部員達を慰め励ます牡丹真人と静かに佇む桜遙斗を目にして不覚にも胸を打たれた。うちのキャプテンなら苛立ちを露わにするだろう。ミスした選手に皆は冷ややかな眼差しを向けるだろう。うちは実力主義だから。僕はSNSで彼らの情報を集めた。ほんの少しの興味から。でもそれがマズかった。彼らが出る試合があれば遠方でも見に行ったり録画したり。気が付けば興味は憧憬に変わっていた。だから桜先輩の退部は意地でも止めたかった。

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