忘れることなかれ


朝日が眩しく映る。

「ルフィ!」

名前を呼んで自分を見下ろす仲間たち。


――仲間…。


おれは笑ってから意識を手放した。





オマツリ島での騒動から暫く。

ベットに横たわっていたルフィはゆっくりと目を覚ました。ざわざわと身体に神経が働きはじめる。
途端、心臓がぎゅっと締め付けられる感覚になり、慌てて辺りを見渡した。

そこには、大きないびきをかいて寝ている仲間たちの姿。
確かめるように女子の部屋もチラリと見る。


(よかった、ちゃんといる)


ルフィはにししと笑ってから、静かに甲板へ出た。まだ体中がズキズキして、足元もふらついている。

「夢じゃ…ねーんだよな」

だって、この身体中に残る傷痕と痛みは本物だから。


そして、心に残る痛みも。


何てんだ?こーゆー気持ち。

悲しいのと怖いのと辛いの…ぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたような気持ち。

身体についた傷なんかより、遥かに痛い。


ルフィは唇をきゅっと引き締めてから、苦しい胸を押さえた。何かが溜まったように重いそこは、自分が生きている証拠とばかりにどくどくと波打つ。


『仲間がいないと苦しいか?』


あの男爵の声がまだ耳に残っている。

息苦しい。とルフィは思った。何かがつっかえているように、上手く空気が吸えない。
胸を押さえたままルフィは、はっ…と短く息を吐いた。

静かな夜の海に、さざ波の音が優しく聞こえる。


「目ぇ覚めたのか」


背後から聞き慣れた声。
びっくりして振り向けばゾロが立っていた。

「…おう、ゾロ」

「身体の方はどうだ」

「まだ痛ぇかな」

「そうか」

「だったら寝てろ」とゾロが部屋の方を顎で指す。ルフィは深呼吸してからゾロを見た。

「あー、よかったー」

「あ?」

聞き返すゾロに向かって、ルフィはニッと笑った。

「だってさ、おれ、独りじゃねーもん」

途端にゾロの表情が険しくなる。



『もはやお主に仲間はいない』





―…お主は独りきりだ―





この言葉を聞かされた時は、本当に辛かった。おれのせいで皆が…と、ずっと責め続けてた。瞼を閉じれば、あの禍禍しい花に飲み込まれていく仲間の姿が鮮明に映し出される。

「皆が消えちまった時は、ほんとに…怖かった」

包帯の巻かれた両手を見詰めながら、ルフィは呟いた。


名前を必死に叫んだ。
闇の空に虚しく響く声。

仲間を還せと、叫び続けた。

無数の矢が、仲間を失った男爵の孤独の日々が、後悔の数が、身体に突き刺さった。仲間を失った悲しみが、地面いっぱいに広がっていった。


その悲しみの中に、おれは独り。


「怖かったんだ…おれ」

ルフィそう言いながら笑ったままの顔をゾロに向ける。

「んな顔すんな」

…泣きそうな顔で、笑うな。

ゾロの言葉にルフィは笑うのをやめた。

「…辛いんなら、泣け。おれが胸貸してやる」

「泣かねぇよ」

「泣けよ」

「ゾロのばか」

「んだと?」

怒ったように声を低くするゾロを見てから、ルフィは一つ笑った。

「ゾロ」

「あ?」

ルフィは顔を伏せたままゾロに近付くと、頭を胸に預ける。

「すきだ、だーいすきだ」

「…知ってる」

ゾロはルフィの頭をぽんぽんとあやすようにしてから、優しく抱き寄せてやった。

「…なんか知らねぇがよ、おめぇに呼ばれた気がしてな…。その後ずっとおめぇを呼んでた気がする」

「…ん。おれもゾロの声、聞こえてた気がする」

ギュッとルフィはゾロのシャツを掴んだ。

「…おれ、独りじゃない」

「当たり前だ」

ゾロが更に抱きしめる腕に力を込める。

ルフィは体中にズキズキとした痛みを感じた。



傷は痛む。

だけど、不思議と胸にあった痛みと重みは和らいでいた。


けど、この痛みと重みは、忘れてはならない。


そんな気がした。





END
アトガキ
映画「オマツリ男爵と秘密の島」のその後を妄想。
ゾロル良いよゾロル。



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