短編小説 make a fresh start of life with you. カラン、とドアに付いているベルが鳴り、人が入ってきたことを伝える。 今日はあまり客が来ず、もう閉めようかと考えていた時だった。 「久しぶりですね」 「…いらっしゃいませ」 「冷たい。お客ですよ?」 「…………」 そんな時に来たのは、少し前まで自分の一番近くにいた存在。そして、今まで出会った中で、一番愛しく思っていた人。 「変わりましたね」 カウンターの席で、自分の目の前に座る。 「…………」 自分に向かって伸ばされた手をかわして、静かに言った。 「…触んな、仕事中なんだよ。しかも何でまた来たの?もう、関係無いだろ」 「関係無い?」 ピクリ、と彼の眉毛が上に上がった。 「もう、何の繋がりもないだろ。それとも何?まだ何か言いたいことが…」 「あります。だから、また来たんです」 「………」 グラスを拭いていた手が止まる。 「…あの時の言葉は、本心から言った言葉なんですか?」 「…………」 …本心だ、本心だ。 心の底から、“終わりにしたい”そう思った。 これは、言い聞かせる為の呪文なんかじゃない。 「それ以外に何かある?」 「嘘をついているんでしょう?」 「冗談キツイ」 「嘘です。貴方の本心が聞きたいんです、俺は」 人の目を見て話すのが苦手だった。なのに彼の瞳は自分を食い入る様にじっと見つめてきて、このまま合わせていたら、きっと吸い込まれてしまう。 慌てて視線をずらす。 「…あの時と変わらない。それと、何も飲まないなら帰れよ」 「本当のことを言ってくれたら、今すぐにでも飲みますよ」 「だから、あの時と同じ」 「本当のことを言ってください」 「だから…っ」 “終わりにしたい” 好きで、好きで、仕方なくて。 離したくない、離れたくないと何度も思って。 なのに、突然降りかかってきた不安に、どうすることも出来なくて、困らせて、結局消えた関係。 ――もう、元に戻せるわけない。 「まだ俺は、貴方のことが好きなんです……」 「………っ」 困らせて、追い詰めて、逃げたのは、紛れもなく自分だ。 「貴方の本当の気持ちが聞きたい」 手にしていたグラスが、落ちる。 ―――手を伸ばして、貴方の元へと飛び込んでいいのでしょうか。 この、罪深き自分が。 「…好きなんです」 見つめられた瞳に、体が勝手に吸い込まれる様に彼へと引き寄せられる。 「…ごめん、嘘。全部嘘」 あの時言ったこと、さっきのこと全て嘘。 「また元に戻れるなら…っ」 貴方との全てを、やり直そう。 make a fresh start of life with you. [*back][next#] [戻る] |