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長夢

「…僕、大きくなったら、曽良さんと結婚します」

「…へぇ。楽しみにしてますね」








「…………………」


なんて、懐かしくて恥ずかしい夢を見たんだろう。


ムクッと上体を起こして、まだ何もない部屋を見渡した。

昨日引っ越してきたばかりの、ピカピカの新居だ。

家具は、まだ小さい冷蔵庫と、実家から持ち込んだテレビ、PCぐらいしか置いていない。


住むところが変わったから、あんな懐かしい夢を見たんだろうか。


枕元にある目覚まし時計が示している時刻は、午前5時。

窓から見える空模様はまだ薄暗く、朝方ということもあってか少し肌寒い。


僕はもそもそと布団にもぐりこむと、二度寝することに決めた。

「………」

…目をつむって数分たったが、眠気は一向に襲ってこない。

見た夢のインパクトが強すぎて、目が冴えてしまったようだ。


本でも読もう、と思い、布団から出る。

う…。寒い…。


パジャマの上からパーカーを羽織って、制服は布団の上に並べて置く。

換気のため窓を開けようと、窓際から下を覗きこむ。

すると。

「………?」

いまどき珍しい着物姿で、道の真ん中にポツンと立ち止まっている人がいた。

顔は被っているかさのようなもので見えない。

…怪しい。


あ。そういえば、今日の朝ごはんまだ買ってない…。

コンビニに今日の朝食を買いに行くついでに、あの人の正体を確かめることにしよう。


財布を手に、僕は玄関のドアを開けた。

マンションの3階から階段を降りて、1階のロビーへ。

廊下や階段から見える風景は、紅葉が済んだ木が立ち並んでおり、あたり一帯が赤色やら黄色やら。

中々綺麗なんじゃないだろうか。


ロビーの自動ドアが開くと同時に、若干駆け足気味で外へ出る。

僕の窓から見える場所へ、俯き気味に早歩き。


いた。


後ろ姿しか見えなかったが、僕は立ち止まった。


白地に青いラインが入った着物を見事に着こなしている姿は、背格好から見て男だろう。

傘の下から見える髪は、綺麗な黒髪。

好奇心を燻らせながら、今度はゆっくり歩き始める。

そしてその男を追い越して、数歩歩いた時。


「…あの」


話しかけられた。


声の低さからして、やっぱり男のようだった。

僕は立ち止まると、振り返らず、「なんですか?」と聞いた。


すると、足音のような物音が後ろから聞こえたかと思うと、両肩にいきなり筋張った手が見えた。


「わ…っ!?」


気づいたときには、僕の体はさっきと逆の方向に振り向かされていた。

あまりにも突然のことだったので呆然としていると、男の顔が真正面から見えた。


綺麗で、整った顔。ものすごく美形だと、男の僕でも思う。


そんな美形男は、ほんの少しの焦燥を表情に滲ませて、混乱する僕を見つめ、こう言った。


「………彼方…?」

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あきゅろす。
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