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ONE
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「こっ…ここんにちは!」

久しぶりの恋人からの連絡に、少し浮足立ちながら指定された彼の会社へたどり着くと、そこには出来過ぎなぐらい頭も顔も良く出来た彼の弟と、その隣りでここに居るのが申し訳なさそうにちょこんとソファに座る可愛い男の子がいた。
黒いサラサラな髪の毛、愛くるしい大きめの瞳、小柄…ひと目見ただけで、この子が誰かすぐに分かった。

『朔がめずらしく本気になったらしくて、俺に惚気るんだわ。』

少し前に、隆哉が朔弥君の話をしてくれたのを思い出した。
そっか、この子が噂の。

「お疲れ!こっちは朔弥の柊ちゃん。っで、コイツが俺の。」

咥えタバコで紹介って、人としてどうよ?
お前には言ってやりたい事が山ほどあるんだ!
気安く肩を抱こうとしている腕にも腹が立って、それをサッと交わして可愛い柊ちゃんに笑顔で向き直った。

「本田です。こんにちは!」

「本田…さん?」

頭の中に?が浮かんでいる感じの柊ちゃんを、朔弥君が今まで見たことない優しい表情で見つめる。

「敬吾の兄ちゃん。」

「えー!!あっあの、すみません!ちょっとビックリしちゃって!」

可愛い!可愛過ぎる!!
あわあわしている姿があまりに可愛くて、隆哉への怒りすら忘れてしまいそうだ。
もっと仲良くなりたいなー。
とりあえず、餌付けとかしてみようかな。

「ご飯まだでしょ?はい、これ差し入れ。」

「ありがとうございます!じゃあ、お茶入れてきます。」

「あっ!…ぼっ僕も!!」

朔弥君が礼儀正しくお礼を言い、まだ緊張感と驚きでいっぱいいっぱいな柊ちゃんはペコリと僕に頭を下げて、二人で仲良く奥にある備え付けのキッチンへと行ってしまった。

「さすが、ハル!気が利くー。」

久しぶりに見る恋人の顔がデレっと締りのないコレって、なめられてんの??
久しぶりの恋人からの電話に、俺は心底苛立っていた。
しかも、それは呼び出しの電話で、『ほったらかしにして悪かった』とか『寂しかった』とかではなく、第一声が『メシ買ってきて』だったからだ。
俺はお前のパシリか???っつーか、まずそれが、2週間ぶりに会う彼氏への言葉か???
めちゃめちゃムカついたが、朔弥くんと柊くんが来るという話だったので気持ちを切り替えて、霧島家行きつけのパン屋で大人気の、カツサンドをテイクアウトしてきた。
わざわざムカつく奴の大好物を選んで買って来た俺も、我ながらどうなのかと思う。

「なぁー、そんな怒んなって。」

「うるさい。お前、後で覚えてろよ!」

首を片手で締めながら低い声で言い放っても、相手は嬉しそうに笑うばかり。
ったく、ニヤニヤ笑いやがって!!マジでムカつく奴だよ、お前は。
長い付き合いなだけに、俺の行動も言動も、隆哉のその笑みも、お互いに意味を理解出来るだけに悲しい。
畜生、俺だってパシリするほど暇じゃないんだ。
たとえ誰かが一緒でも、短い時間でも、忙しくてなかなか会えない恋人の顔を見たかった。
そういう俺の気持ちまで、お前は分かってるの?

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