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長い恋が終わっても、すっきりしたような、そうでないような、曖昧な気持ちを抱えたままだった。
どうしても、もう一つの気持ちに上手く区切りがつけられない。

日を追う毎に重森が欲しくてたまらなくて…けど…会いたいけど、会えない。
今顔を見てしまったら、きっと俺は自分の気持ちを抑えられなくなる。

ただ、一方的にそう思っているのは俺だけで、重森はそうじゃない。
何度も来る誘いの電話やメールにも何かしら理由をつけては、重森を避け続けるにはもう限界だった。

「もしかして、俺の事避けてる?」

「…えっ?」

久々に出勤したバイトの最中、慌ただしかった店内に少しだけ静かな時間が訪れた頃、隣に並んだ重森が呟くように言った。

「な…んで?」

「何となく。」

「たまたま会わなかっただけで、別に避けてるつもりはないけど…最近、試験とかゼミとか忙しいじゃん!特に俺のゼミの教授うるさくて、バイトどころじゃなかったし。お前の所の教授は良い人だよな。講義も分かりやすいし、試験もレポートだけだったしさ!」

本心を隠す為に、自分でも驚くほど次から次へと都合の良い言葉が飛び出してくる。
無理矢理ゼミの話へ切り替えた俺の下手な言い訳にも、重森は納得したようで、その後は何も言わなかった。
それに内心ホッとしながらも、自分と重森に嘘をついた事に、俺はますます苦しくなっていった。


そんな事があった3日後。梅ちゃんに誘われて行った飲み会で、偶然重森の姿を見つけてしまった。
ここに来る事はお互い知らせてないし、重森が飲み会に参加するのはかなり珍しい。
だから俺は、変にドキドキしていた。
俺が来たことに気付く様子もなく、いつものメンバーの中で楽しげに笑う重森をわざと避けて、俺も自分の仲間の輪に加わった。

「来てるね?」

「うん。」

重森に気付いた梅ちゃんが『見つけた!』と言わんばかりに小声でそれを知らせる。
さっきより緊張が増したのは、絶対梅ちゃんのせいだ。
店内中に響くほどの笑い声の中でさえ俺は上手く溶け込めず、重森の様子が気になって仕方がなくてチラチラと視線を向けてみる。
わざと自分で避けておきながら、明らかに重森狙いで近寄っている女の子と笑って話しているのを見てイライラして、身勝手な嫉妬心を抑える為だけにどんどんアルコールの量が進む。
それでも重森は全然俺に気付いてくれなくて、さっきから一度も視線すら絡まない事に腹が立った。

「俺、…今日は帰る。」

なぜか急に泣きたくなって、それだけ言うのがやっとだった。
様子が変な事に梅ちゃんだけが気付いてくれて、店の外まで一緒に出てくれた。

「一人で平気?」

涙が限界まで溜まって今にも零れおちそうで、頷くことも無理だった。

「そんなに好きなら言っちゃえばいいのに。悠は変な所で意地っ張りだよね!」

梅ちゃんの優しさに少し救われた気持ちになる。
目を擦って涙を拭い、ちゃんとお礼を言おうとしたその時。

「悠!」

誰かに名前を呼ばれて振り向くと、俺に気付いていなかったはずの重森が焦ったような顔をして、そこに立っていた。


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あきゅろす。
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