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重森が部屋から出て行っても、もしかしたらすぐ戻って来るんじゃないかと少し期待して、ベットから抜け出せずにいた。
そこから脱出するきっかけをくれたのは、同じ学部で俺の唯一の女友達である梅ちゃんからの呼び出しメールだった。



「あのバカ男ー!メールぐらいちゃんと返せっつーの!!もういいや、無視決定!」

彼女からの呼び出しは、たいてい恋人と何か嫌な事があった時で、大学近くにある梅ちゃん行きつけの居酒屋に向かうと、そこには予想通り不機嫌オーラを漂わせる梅ちゃんが待っていた。
ポイっと携帯をバッグに投げ入れ、運ばれて来たばかりのカシスソーダを一気に喉へ流し込む。
普段から元気で活発でいつも楽しそうに笑っている彼女にも、人知れず悩みがあり、俺達はその悩みを共有する仲だ。
『類は友を呼ぶ』ということなのだろうか?
彼女の相手にも、家庭という帰る場所がある。

梅ちゃんのグラスの中には、重森の香水と同じ色の液体。
ただそれだけの事なのに、胸がチクリと痛んだ。

「…女の人って、みんなそういうの好きなの?」

「カシス?ってかその質問何?」

「いや、別に…。」

梅ちゃんは、慣れた手つきで取り出したタバコに火を点け煙を吐き出しながら、俺の質問に対してそっけなくどうでもいいといった様子だ。
それに不快さは感じず、寧ろ今の俺には居心地が良い。
だから俺は、今心の中に芽生え行き場を無くした感情を告白したくて、梅ちゃんに重森との事を打ち明けたんだ。

「気持ち分かる気がする。でっ?悠はどうするつもりなの?」

「多分…、続けるのは、ね。」

話終えるまで、梅ちゃんは黙って聞いてくれていた。
俺の答に眉を寄せ、不満げな表情で2本目のタバコに火を点ける。

「良いじゃん!どっちとも上手くやってけば。悠はもっと欲張りになった方が良いよ!!だいたい今の彼にだって気使いすぎだし、私なら絶対耐えられない。」

それが出来たら、俺はもっと幸せだって感じられてたのだろうか?
重森との関係が始まってから、松島さんが忙しいという事もあって、あまり会っていない。
松島さんが好きだという自分も確かに存在してるハズなのに、会えない寂しさを感じるどころか、正直ホッとしている自分がいた。
どんな顔をして松島さんに会えば良いのか分からなくて、彼を裏切ってしまった罪悪感はあるけど、その想いとは逆に、もっと重森と一緒にいたいと願う自分。
それを器用に隠して、松島さんの前で平然と笑っていられる自信がない。
ましてや重森とだって、好きだと自覚してしまった今、このまま関係を続けるのは苦しい。
それが分かっていても、全く気持ちが定まらないでいる自分に呆れていた。

ユラユラと上って行く煙の行く先を見つめながら考えていると、梅ちゃんの携帯が大音量で鳴りだした。

「意地張らずに出てあげなよ。」

恋人からの電話を取ろうとしない梅ちゃんの背中を押し、彼女もそれにしぶしぶ従い携帯を持ったまま店の外に出て行った。
今まで怒っていたのだって、彼の事が大好きだから。
きっと今も電話口でその想いを愛しい恋人にぶつけているんだろう。
そう出来る梅ちゃんが何だか羨ましく思えた。
俺も、梅ちゃんみたいに出来ていたら…松島さんとも少しは違った関係になれていたのかな?
テーブルに伏せ、グラスに残ったピンク色の液体を見つめる。
氷が溶けさっきより薄い色にはなっても、俺を苦しくさせるのには十分だ。
重森はあの人とベットの上なのだろうか?
ジリジリと胸に妬きつく気持ちを抑えようと、生温くなったビールを喉奥へ一気に流し込んだ。


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