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恋愛リアル
ハチ
あの後やっぱりいづらくなって、洗濯中だった制服は学校に持って来るように頼み、貸してもらっていたデカめのTシャツとハーフパンツのまま家に帰った。
殴られて腫れていた顔も、敬吾の手馴れた処置のお陰で家族に詮索されずに済んだ。
土日と学校が休みになり、敬吾に会ったのは週明けの月曜日の朝。
その時は制服と借りた服を交換しただけで、他にはあまり言葉を交わさなかった。

あれからしばらく経つけど敬吾はキスのことは一度もふれてこない。
もちろん俺からも何も言わなかったし、またしようとも思わなかった。
でも、敬吾があからさまに意識してるから俺は関係を崩すまいと、いつも以上に馬鹿にふるまった。
その努力の成果か敬吾も普通になって、安心した頃。


「本田君のことが好きなの!私と付き合って。」

いつになく迎えが遅いので、めずらしく俺様直々に迎えに来てやったら階段の踊り場で告白の真っ最中な現場に遭遇。
敬吾告られてんじゃん!
しかも柊と朔弥がくっつくきっかけになったあの女…確か、雨宮とかいうんだっけ?
そうか、だから俺んとこ睨んでたのかー!!俺って超有名人だもんなー。俺が敬吾の事狙ってるの知ってライバル視してたんだー。
マジウケる!!
死角に隠れ、身を潜めながら笑いを堪えるのに必死だった。敬吾はなんて言うんだろう、俺はじっと耳を澄ませた。


「ごめん、俺…好きな子いるから。」

敬吾の言葉に愕然とする。今までそんな話一度もした事なかったから気が付かなかったけど、敬吾にだって好きな女がいたって不思議じゃないんだ。
コイツは俺と違って女を好きになるんだし。
突然現実を目の前にし、階段から突き落とされた感じがした。
女が諦めの言葉を言い、敬吾の前から立ち去っても俺はその場から動くことが出来ずにしゃがみ込んだまま、全く身体に力が入らない。
何だよ…何で俺が振られたみないになってんの?
振られたのは俺じゃなくてあの女だから。
何とか自分に言い聞かせようとしてもまるで効果がなかった。


「おーい、夏樹!なっちゃん?」

気がつくと目の前には不思議顔のツンツン頭。

「こんな所で座って何してんの?」

「…っに…別になんでもねーよ。」

上手く言葉が出なくて、上擦りながら無理矢理大きく声を出した。明らかにおかしい。それに敬吾も気付いたのか、頭をかきながら物凄く気まずそうな顔をした。

「…もしかして…今の聞いてた?」

その態度になんだか頭にきた。何それ?俺が聞いちゃまずいわけ?ってか聞きたくて聞いたんじゃねぇし、お前が勝手に告られてただけだし、ってか何その微妙な顔は。

「オマエ好きな奴いたんだー!知らなかったなー。どんな女?」

もう無理矢理でもいつものように馬鹿にした態度をとるしかないんだ。大丈夫!俺はこんなことくらいで…たかが失恋くらいで凹んだりしない。たかが敬吾ごとき相手に本気になんてならねぇよ。
ってか何で俺が敬吾なんか好きになるんだよ。マジどうかしちゃってたんじゃねー?そうだ!きっとどうかしてたんだ俺は。
今まで俺は欲望に忠実に生きてきたんだし、また少し前に戻るだけの事だ。





でも…。

こんなに苦しいのは何で?





「おい!何で泣いてんだよ?」

違う…本当はもう限界なんだ。
敬吾との関係を守りたくてわざとこんな態度とってるけど、俺はもともと健気じゃないし、我慢とか有り得ないし、似合わない努力をする時点で絶対無理なんだ。
やっと落ち着く場所を見つけたと思ったのに、一生懸命守って大切にしてきたのに、それが夢を見ていたかのように一瞬にして目の前から消えてしまった。
敬吾は俺なんか絶対に好きになるはずがないんだ。
それは初めて会ったあの時…俺を拒んだ時から分かていた事だったのに。
それでも俺は敬吾が欲しかった。
安心して甘えられる存在は他にいないから。
一緒にいる時間が長くなるにつれ、俺の敬吾に対する感情は気付かないうちに、こんなにも大きくなってしまった。
でも言えないんだ。今の自分の気持ちを口にすることなんて、ただでさえプライドの高い俺には絶対に出来ない。
結果が見えてんのにこんな事言えるかよ!

「…もう、俺にかまうなよ。」

「エッ?…お前何言って…」

「今日迎えに来なかったからもう一生俺に近寄るな!!分かった?じゃーな!」

「何だよそれ?…おい、ちょっ待てって。夏樹!!」

背中で馬鹿デカイ声がするのを無視して、全速力でその場から逃げた。
走りながらどんどん視界が歪んでいき、頬に流れ落ちる温かい感触がする。
クソッ!二度とアイツの事なんかで泣くもんか!!これは失恋のせいじゃない、単なる悔し涙だ。
もう誰かに少しでも寄り掛かろうなんて絶対に思わない。俺は誰も好きになんてならない。
今だ止まる気配のない涙をながしながら、新たな決意を固めた。

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あきゅろす。
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