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恋愛リアル
キュウ

そのまま階段を下りると敬吾が声をかけて来た。

「柊ちゃんに会った?」

「ああ、ついでにアンタの連れにもな。」

柊に朔弥の行きそうな所を聞かれたんだろう、朔弥のいない事にも心配している感じだ。

「なんか泣きそうな顔してない?」

「…え?」

言われて初めてそれに気が付いた。めずらしくおとなしい俺におかしいと感じた敬吾はグイッと俺の腕を引っ張っていきなり歩き出す。

「っちょっ授業!」

俺の声も、授業開始のチャイムも無視。無言でどんどん歩き続け、誰もいない空き教室に連れ込まれた。ガチャっと鍵を閉める敬吾に驚き体がビクッとする。そんな俺を敬吾は無言のまま真っ直ぐ見つめて来る。表情からは何を考えてるのか読み取れない。

「…なっ何?」

「この前もそんな顔してたな。」

そういうとふわっと柔らかく笑って俺の頭を優しく撫でた。ヤバイ…マジで泣きそう。この前ってきっと始めてまともに話した日だ。けどその時とは全く違う気持ち。初めてあんな必死で、自分から求めてく柊を見て思った、もう俺は要らないんだなって。自分で幸せになれって、頑張れって応援してんのに、二人がくっついて嬉しいはずなのに…。なぜか俺の心の中は寂しさでいっぱいだった。
もう…俺には何にもなくなってしまった。そう思ったんだ。

「あいつらどんな感じ?上手く行きそう?」

さっきから俯いたまま一言も話さない俺にまた優しい笑顔を向けてくる。それに甘えたくはなかった、なんか敬吾に負ける気がして。だから涙腺が緩みそうになるのをなんとか抑えて、ゆっくり事情を説明した。

「お前のおかげだな。ありがとな!」

やっ…やめろ!その笑顔はやめてくれ!!それをさせると俺の心臓がドキッと飛び跳ねるから。

「べっ別に!お前に礼言われるような事してないし。」

「おっ!照れちゃってー。」

「照れてねぇよ!」

「うそー!夏ちゃん顔真っ赤」

ムカつく!!夏ちゃんってうちの姉貴たち意外初めて言われた。もうコイツと話してやんない。敬吾なんかほっといてこの場から去ろうとするとまたグイッと腕をつかまれる。

「何だよ!」

「俺がいるからな。」

言われた意味が分からず、敬吾を見つめた。

「柊ちゃんが朔弥にとられても俺がいんじゃん!」

何も言葉が出なかった。敬吾がどういうつもりで言ったのか分からないけど、少なくとも俺は…。俺は、嬉しかった。泣きそうなくらい嬉しくて、それがどうしてなのか分からなくて…。ただ、うるさいくらい心臓がドキドキして…。
有り得ない。こんなの絶対に認められない!何で俺がコイツなんか。絶対に違う!!



認めたら…。


認めたら、きっともう戻れなくなる。俺は怖くて湧き上がる感情を無理やり押し込んだ。


「ばっかじゃねぇの!」

恥ずかしいくらいに自分の顔が赤くなっていることは体温が急上昇していく感覚で痛いほど良く分かってる。それがどうしてかも。けどそれを認めたくない気持ちと、半分認めてる気持ちとがごちゃ混ぜになってる。
敬吾の顔なんか見れなくて、嬉しかったはずなのに俯いたまま精一杯卑屈な態度で返した。
いつの間にか俺の頭の中には、さっきまでの柊への寂しさとか、孤独感とか、もちろん屋上でヤッてた奴の事なんかとっくに消え去っていて…。



俺の頭の中は…。


今俺の隣で『バカかも!』なんてケラケラ笑ってるコイツでいっぱいになっていた。





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