恋愛リアル ゴ ったく、どこまで女王様なんだよ!命令口調って、ここはお願いしますって頭下げるとこだろう?とか言いつつ傘に入れてやってる俺もどうかしてる。 なんかほっとけなかったんだよなー。振り返った時に見た夏樹のあんな顔見ちゃったら置いて帰る方が無理だ。 あんな辛くて悲しい顔する奴…初めて見た。 「家どっち?柊ちゃん家から近いんだろ?」 「こっち。」 柊ちゃん家は行った事ないけど、朔弥ん家の近くだって聞いてたからその辺の道ならだいたい分かる。つーか俺ん家逆方向なんだけど、まあいいか。学校からそんなに離れてないみたいだし、雨もだんだん弱まって来たし、送ってあげようじゃない。俺ってばすげぇ良い奴! 「なぁ、そんなに男とヤんの好きなの?」 「…好きだよ。」 本心は反対のように思えるんですけど。そんな事言ったらまた馬鹿にされそうだから黙っとこう。 「つーか、俺の事嫌いなのに送ってくれんなんてアンタも俺としたくなった?」 「は?お前とは頼まれたってヤダね!だいたい入れろっつたのそっちだろ!」 はぁー。マジでこいつの頭ん中はヤル事しかねぇのかよ!!もう呆れるっていうか、どんだけ本能に忠実なんだ。もしかしたら朔弥よりすげぇ奴かも。今改めて夏樹って男をしっかりと認識した気がする。本当に何でコイツの為に傘さして家まで送ってやってんのか自分の行動も分からない。そんな自分に疑問を抱きながらも、しっかりと女王様をご自宅まで送り届ける俺ってかなり紳士。 「ここ。」 でかい!見れば思いっきり『和』の建築物。長い瓦屋根ここはどこかの武家屋敷ですか?って感じの一瞬江戸時代にでもタイムスリップしたみたいな衝撃を受けた。 「お前ん家って…何屋?」 「あ?踊りの教室だよ。日本舞踊。」 「…ふーん。お前もやんの?踊り」 「まあね、最近はやってないけど。」 「そうなんだ。」 それ以外言葉が出てこない。教室だけでこんなでかい家が建つわけない。さぞかし有名でそれなりの舞台とかに携わったりしてるんだろう。只者じゃないとは思ってたけどまさかこんな一面があるなんて思いもよらなかった。だから綺麗な顔してんのかと変に納得。 「アンタん家の方が金持ちだろ?会社いくつも持ってんじゃん!俺ん家なんてただ古くてデカイだけだし。」 「俺の家はこんなでかくないよ。金持ちなのは親父だけ、俺はただの高校生だし。」 昔から金持ちとか言われるのは好きじゃない。俺にはそんな感覚全くないし、今まで生きてきて金にモノ言わすとか、権力を振りかざすとかそんな生き方はした事がない。金も権力もすべて親父のモノ、俺が困った時に親父や会社の名前を出して良いわけがない。俺はそう教えられてきた。だからもし困っても絶対親父には頼らない。けど、周りには分かんないよねそんなのは。 ふーん。とただ答える夏樹からは俺の事をどう思ったかなんて分からない。俺は別れのきっかけを探しながらふと空を見上げた。さっきまであんなに激しかった雨がもうすでに止んでいる。 「じゃあ、帰るわ!」 軽く手を上げて歩き出した時、なんか言い忘れてる気がしてもう一度振り返る。俺の行動に少し驚いて目を大きく開いた夏樹がカワイイなんて思う。 「俺別にお前の事嫌いじゃないよ。」 嫌いじゃない、嫌いになるほどまだ良く知らないし。アソビでヤルとかそういう所はキライだけど。さっきから「キライ」って何度も言うからなんか気になって、夏樹からしてみたら単に嫌味で言ったのかもしれないけど。プライド高き女王様が俺に嫌われてててもダメージなしだと思うし。けどいじけてる感じもしたんだ、俺ビビッて結構冷たくしちゃったから。 じゃあなと手を振りながらまた歩き出した俺の背中に今までで聞いた中で一番カワイイ「バカ…。」って声が聞こえた。 [前へ][次へ] [戻る] |