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恋愛リアル
ヨン
−敬吾 Side−

何で俺怒られなくちゃいけないわけ?全然納得いかないんですけど!普通怒るのこっちでしょ?ったく毎日毎日いいように追い回されて、あの狙いを定めた捕食者の視線にビクビクして過ごしてるってのに。

けど今日の夏樹は、なんかいつもの『夏樹様』じゃない感じで…。なんつーか、すげぇ弱弱しくて堪らずに声を掛けたんだ。なのになんだよその態度は!突然叫んで逃げることねぇじゃん!!かなり驚いたんですけど。その態度にめったに怒らない俺はめずらしく腹が立って思わず逃げる背中を追いかけた。
強引に腕を掴んで振り向かせ、その表情を伺うと今まで見たことのない寂しそうな表情を浮かべ、いつの間にか激しく雨が降り出した校庭を見つめている。
その顔に、なぜか胸がキュウッと締め付けられた。

「…すげぇ雨だな。」

掴んだ腕をゆっくりと力を抜いて離す。その間も夏樹はおとなしく俺の言葉にも返事をしない。しばらく二人で玄関につっ立ったまま雨の校庭を見つめていた。放課後でけっこう時間も時間だからここにくる人影もなく、雨のおかげで少しだけ冷やされた湿った空気と雨音だけが響き渡る。

「…今日は逃げねぇの?」

先に口を開いたのは夏樹だった。逃げるって…まあそれはそうなんだけど。下駄箱脇の壁を背にして両手を後ろに組み斜めに寄り掛かり、俯きながら聞いてきた夏樹はやっぱりいつもの危険な感じはしない。いったいどうしたんだ?無造作に開けられたYシャツから覗くのは、色白の肌に誰かが付けたのであろう赤い痕。それが視界に入った途端急に胸の奥に湧き上がる不快感。なんだか胸焼けしたみたいに気持ちが悪い。

「なんか弱ってるみたいだから。どうした?」

「別に…アンタに関係ないじゃん。」

「それはないんじゃん?でかい声出されてマジでビビッたんですけど!」

いい加減頭に来て不機嫌さを露わにする俺。夏樹は視線を上げずにそれに気付いたのかますます身体を小さくした。

「…悪かったよ。」

「おっおう。」

すごい素直じゃん!かなんか意外。もっと意地っ張りで、プライド高くて、ツンケンしてんのかと思ったけど…カワイイ所もあるんじゃん!なんだ、あんなに怖がって可愛そうなことしたかも。考えてみたら怖がって逃げてるばかりで、ちゃんと話した事もなかったからコイツがどんな奴だとかあんまり知らなかったんだ。まあ噂はいろいろ聞いてたけど。

「で?何かあった?良ければ話してごらん。お兄さんが聞いてやるぞ!」

怒ってたのはすでに過去にして、両手を大きく広げて親切心全開で待ち構えている俺。けど夏樹から返ってきた言葉は、大きく予想を裏切るものだった。

「馬鹿じゃねえの?アンタって簡単に騙されるタイプだな。勝手に勘違いしてんじゃねぇよ。別に弱ってねえし、さっきヤってきて疲れただけだ。だいたい何でいつもヘラヘラしてんの?俺には嫌な顔しかしねえのに。」

前言撤回!やっぱコイツ可愛くない!!せっかく人が親切に聞いてやろうとしてんのに何だよその態度は!嫌な顔させてんのお前だし。

「あっそ、せっかく聞いてやろうと思ったのに。そういうお前は何で俺にかまうの?俺なんか相手にするより周りにいっぱいいんじゃん。」

質問に質問で返してもそれに対する返答は来ない。さっきの強気はどこへ行ったんだか、黙りこむ夏樹に分かるようわざとらしく大きなため息をついた。
なんか調子狂う。弱気だったのが急に強気になってまた弱気。いつもの俺のペースは乱されっぱなしで、正直あんまり関わりたくない相手だと思った。

「まあいいや、遅いし俺帰るから。」

下駄箱から靴を出してスニーカーに履き替えていると後ろで何かが引っ張られる感覚がして、振り返ると俺のYシャツを掴む夏樹がいた。

「…傘」

「ん?」

「傘ないから入れてけ。」


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