キミのトナリ A すっかり気分じゃなくなった俺は、駅への道を進み始める。 柊のことすら気遣えないほどに、それどころか柊にさえイラつきを覚えていた。 一方的で身勝手な感情だってことは、十分自覚している。 前に、柊に付きまとってた女にイラついて、嫉妬して、まあそれきっかけで付き合うことになったけど。 男相手に嫉妬とかおかしいとは思うが、アイツから送られた視線に俺への憎しみが込められていたのは確かだ。 柊に対する気持ちが俺と一緒なら、その理由が明確だ。 でも、今の怒りは相手に対してだけではなかった。 「誰、アイツ?」 「…え?」 「男の方、誰?」 「先輩だよ。生徒会役員してる。この前図書館で会っ」 「へぇー。」 それ以上聞きたくなくて、柊の言葉を遮るようにわざと愛想のない返事をした。 俺と会えなかった時間、アイツといたのかと思うだけでどんどんと怒りが込み上げてきて、自分でもそれを押さえられない。 柊にやたら馴れ馴れしい態度を思い出し、それが自然に態度に現れる。 「ムカつく。」 怒りのまま吐き捨てた。 柊は一瞬ビクッと身体を震わせて、俯いたのが視界に入っても、今は何もしてやりたくないし、言葉もかけてやれない。 そんな顔をさせているのはきっと俺で、また傷つけてしまったことにようやく気付くと、胸の奥にズキンという痛みを感じた。 傷つけたくない、俺は柊を守りたいはずなのに、やってることはいつもガキっぽくて、自分勝手で、馬鹿丸出しだ。 自分のアホさ加減に呆れて、深くため息を漏らすとまた柊の身体がビクッと震えた。 駄目だ!このままじゃいくらなんでも柊が可哀そうだろ。 俺だって本当は、抱きしめて、キスして、思いっきり甘やかしてやりたいんだよ!! 「行くぞ。」 ゆっくりとホームへ滑り込んでくる電車を確認して、柊の手をとる。 ギュッと固く握られた手は、真夏の気温とは正反対で冷たかった。 ハッとしたように一瞬俺を見上げた柊の顔は、今にも泣き出しそうだ。 抱きしめてやりたかったが、まだ完全に怒りがおさまっていない俺にはそれが出来なかった。 [前へ][次へ] [戻る] |