キミのトナリ A 物心ついた時には、自分で自覚するほど何でも手にしていた。 すでに持っていたから欲しいものなんてなかった。 褒められても俺の中では出来て当然で、別に嬉しくもない。 たかがこれくらいの事でなぜ騒ぎ立てるのか? 喜びの表情を見せない俺を、大人は不思議がっていたけど、俺には逆にそれが不思議だった。 俺の意思とは関係なく、いつも周りでは勝手に女どもがキャーキャーと不快な音波を撒き散らし、それを見た男どもからは自然とヒガミや恨みを買う。 それは成長すればする程ますます酷くなり、俺の知らない所で恨みがどんどん増殖していく。 見に覚えのない罪を着せられては迫ってくる敵を一掃していくうちに、俺は『悪魔』と呼ばれるようになった。 他人がどう俺を思っていようが、そんな事には全く興味が沸かない。 俺を悪魔だと思うなら勝手に思えばいい。 セックスも同じだった。 代わる代わる女が俺に跨り、ゆらゆらと腰を揺らしても何も感じない。 ただそこにあるのは、生理的な快感。 単なる排泄行為。 欲を吐き出してしまえば何事もなかったように消える。 他人を好きになる…たとえば、誰かを狂おしいほどに欲する感情は俺にはない。 今まではそう思っていた。 柊を好きになるまでは…。 時折見せる寂しそうな横顔の理由はまだ分からないが、そんな瞬間さえも奪いたくなる。 他の事なんて考えられないくらい、もっと俺に狂えばいい。 自分の中にこんなにも独占欲があることに驚く。 願い通り身体を繋いでもなお、柊の全てが欲しいと思っている俺は、本当に『悪魔』なのかもしれない。 [前へ][次へ] [戻る] |