キミのトナリ
G
−朔弥 Side−
「美味しい!!」
俺がつくったおかゆを嬉しそうに食べる柊を見て、心の中が温かくなる。
ここへ来て、柊の顔を見たら思っていたより元気そうで少し安心したが、さっき泣きながら言いかけた事が気になって仕方がない。
とりあえず、腹を満たして、もう少し落ち着けば話してくれるだろう。
「ごちそうさま。ありがとう、すごく美味しかったです。」
ペコリと頭を下げる姿が可愛くて、思わず柊を抱きしめる。
ビクっとしながらも、すぐに俺の背中へ回された手でこうして良かったんだと安心した。
本当に愛しくてたまらない。
「ちょっと休む?」
「でも!せっかく朔弥が来てくれてるのに…」
「さっき言ったろ!俺は看病しに来たって。」
「でっでも…うわっ!」
言う事を聞きそうもないので強引に柊を抱き上げると、そのまま寝室へ向かい、なるべく優しくそっとベットへ降ろした。
「いいから寝ろよ。ずっとそばにいてやるから。」
「…ずっと?」
安心させるつもりで言ったはずなのに、なぜか柊は不安げで、何かを訴えるような視線で俺を見上げる。
何か言いたげで、それをためらっている…そんな感じ。
「お前…さっきっから俺に言いたい事があるんじゃない?」
俺の問いに一瞬ハッとした表情を浮かべ、すぐに視線を落とした。
「大丈夫だから言ってみ。」
ベットへ腰をおろし、そっと柊を抱きしめ、少しでも安心するように頭を優しく撫でる。
さっき、何か言いかけた時の泣き方が酷かったし、今の不安げな瞳が切なくて、こうせずにはいられなかった。
それからしばらく、沈黙していた柊がためらいながらも、搾り出すような声で話し始めた。
「…まだ、夢みたいなんだ…朔弥とこうしている事も、僕の事好きだって言ってくれた事も、あまり実感がわかなくて。」
弱々しい柊の言葉に黙って耳を傾ける。
「すごく嬉しくて、幸せって思ってるのに、いつも不安で…もし朔弥に、僕の事要らないって言われたらどうしようって考えて。
僕…こんなんだし。この間だって、朔弥をガッカリさせちゃったから。
だから…あの…女の子と…キス…してたのも…しょうが…ないの…かなって…。」
「ちょっと待て!…キスって?」
「…この前、してたでしょ?体育館の裏で…」
体育館裏?…ああ、あれか!確か、すげーしつこく言い寄ってくる女に無理矢理された。
柊はそれを見てたんだ。
「何でそれもっと早く言わねぇの?」
「…ごめんなさい。怖くて、朔弥に要らないって言われるのかと思って…聞けなかっ…。」
声を詰まらせ、必死に泣くのを抑えようと我慢している顔に、キューッと胸が締め付けられる。
「ホント、お前分かってねぇな?」
「えっ?」
両手で柊の顔を掴み、震える唇にキスをした。
同時に大きな瞳に溜まっていた涙が、限界だといわんばかりに一気に溢れ出す。
分かってないのは俺の方だ。
あんな女にキスされた事なんて、俺にとっては何て事ない事だ。
けど、柊はそれを目の当たりにして、ただでさえ俺の気持ちに不安を抱いていたのに、さらにそれが大きくなっても、じっと小さな胸に抱えて、一人で耐えていたんだ。
俺はそれに、全く気付かずに自分の欲望だけ膨らませ、苛立っていた。
ただでさえ、自分の気持ちを出すのが苦手な奴なのに、俺を責めたり出来るハズがない。
「…なん…で?」
少し長めに触れ合っていた唇が静かに離れ、流れ出す涙を指で拭う。
その間も、柊は切ない顔で俺を見上げる。
「俺が柊の事、どれくらい好きか知りたい?」
「うん、知りたい。」
「…この前みたいに、それ以上の事するけど良いの?」
言葉の意味を理解し、一瞬戸惑いの表情を浮かべるも、覚悟を決めたかのように俺をまっすぐ見つめ、柊は静かに頷いた。
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