キミのトナリ
F
慌しく着替えたり、部屋を片付けたりしていると思っていたよりずっと、早く朔弥が来てしまった。
ずっと走って来たみたいで、玄関の前に立っていた朔弥がハアハアと荒い呼吸をしていた。
「…どっどどうぞ!」
ドアを開け、朔弥を部屋に招き入れると、いきなり後ろからギュッと抱きしめられる。
「…ささっさくや?」
「すげぇ心配した。」
「…あっ…。」
耳元で低い声がして、それがどこか深い所まで響いてくる。
何だか、安心したような、切ないような気持ちになって、自然と涙が出てきてしまう。
「…さくゃ…ヒク…あのっ僕…」
やっぱり、僕には黙っておく事が出来なかった。
僕が想っているのと同じように、朔弥に想われていたいんだ。
たとえ、その気持ちが僕一人のものじゃなくても、朔弥が僕を好きでいてくれるならそれでいい。
でも…知らないフリが出来る程、僕は器用じゃないんだ。
だから、朔弥の気持ちをちゃんと確かめておきたかった。
泣きながら話す僕をゆっくりと振り向かせると、今度は正面から抱きしめ、頭を優しく撫でてくれる。
「ゆっくりでいいから。」
「…ヒク…うん…ヒク…。」
そのまま玄関で抱き会っていると、また僕の携帯が鳴り出した。
絶対夏樹からだ。僕がメール返さなかったからきっと心配して電話してくれたんだ。
朔弥に謝って、慌ててリビングのテーブルに置いた携帯を手にした。
『もしもし、俺。ちったー良くなったか?』
「…うん。あの、今朔弥がね来て…」
『もう来てるのかよ!早起きだなージジイかよ!ちょっと代わって。』
僕が言い終わる前に、夏樹が怒ったように話始める。
朔弥に何を言うのかビクビクしながらも、言われた通り朔弥に携帯を渡す。
「何?…ああ?…分かった。」
用件は短かったようで、すぐに朔弥から携帯を返された。
何を話したのか朔弥の顔をよく見たけど、表情からは全く読めない。
「朔弥に何言ったの?」
『イイコト!そいつになら何言っても大丈夫だよ。あとは二人で頑張れよ!じゃーな。』
それだけ言うと、夏樹はすぐに電話を切ってしまった。
朔弥との会話が気になったけど、聞くに聞けない。
さっき言いかけた事も言えない雰囲気になって、無理矢理話題を変える。
「…あっ朝ごはん食べた?」
「まだ。お前は?」
「僕もまだ、というか昨日も食べずに寝ちゃったから。」
「何か食えそう?」
「うん、お腹空いたかも。」
僕が答えると、朔弥は安心したように笑い、そのままキッチンへ移動した。
「おかゆ作ってやるよ!ってかそれしか作ったことねーんだけど。」
「でっでも!」
「病み上がりなのにやらせるわけにいかないだろ?一応看病しに来たんだし。味なら俺ん家の家族が保障するから心配すんな!」
キラッとした笑顔を向けられ、僕は断わる事が出来なくて結局作ってもらうことにした。
まさか、朔弥の作ってくれたおかゆが食べれるなんて!
僕はなんて幸せ者なんだ!!
「何、ニヤけて!そんなに食いてぇの?」
嬉しくて舞い上がり過ぎてニマニマした顔を朔弥に見られてしまい、すごく恥ずかしい。
「ぼっぼぼぼ僕シャワー浴びて来る。」
その場から逃げ出したくて、早足で浴室へ逃げ込んだ。
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