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キミのトナリ
B

「にゃははー」

黙って聞いていた敬吾が、突然不気味に笑い出した。
それに対して夏樹と冷ややかな視線をぶつけてやる。

「もー!2人とも仲良しさん!!」

こっちの態度を気にする事もなく、敬吾はさっき以上の気持ち悪さで嬉しそうにニヤニヤしてくる。

「マジキモい!一生笑うな!!」

「えー!ひどい!!さっきのなっちゃんてば、素直でめっちゃかわいいんだもん」

敬吾のわざとらしいリアクションで、張り詰めていた緊張感が少し和らぐ…というか、本人がそういう意図でやってるのかは知らないが、おかげで気分が解れた。
なんだかんだ可愛いと言われたら、悪態をいても頬を赤らめる夏樹。
そんな目の前のやり取りが、羨ましく思えるのは、明らかに柊不足だからなんだろう。
俺のとなりには、やっぱり柊にいて欲しい。
なんとなくカタチを現していた思いが、徐々に覚悟に変化する。
食事を終え、落ち着いたころを見計らい、俺の中で固まった思いを2人に打ち明けた。
聞いた瞬間は揃って驚いた表情をする2人だったが、最後はしっかり伝わったようだ。

「本当、お前変わったわ。柊ちゃんのおかげだな」

それは俺自身が1番驚いてる。
まさか自分がこんな感情を持ってるなんて想像すらしなかった。
そう言って敬吾はまたニカっと笑った。
その隣で同じ気持ちとでも言うように、夏樹も頷きながら安心したような、少し寂しそうな、そんな複雑な笑顔だった。
それから、今後の事を俺たちなりに少し話合って、入院中に必要な柊の着替えを取りに行くと夏樹が言ってくれたので、そっちは任せることにして、俺が今しなくてはならない事をするために帰宅することにした。
兄貴が帰宅するまで、上手く話せるように考えをまとめようとしたが、逆に空回りしそうでやめた。
素直に話した方がきっと伝わる。
ソファーに横になってみたが、全く眠れないまま夕方になり、兄貴がいつもより早く帰って来たところで身体を起こした。


「朝まで付き合ってもらって、悪かった」


「ああ、お前もお疲れ。帰ってから寝れたか?」

首を横に振ると、だろうなと言いながら、兄貴が煙草をくわえてリビングの窓から庭に出ていく。
俺は後を追いかけた。

「話あるんだけど」

「ん?何だ改まって」

めずらしく緊張している自分に気づいて、1つ深呼吸をしてから切り出した。

「柊のことなんだけど、この家で一緒に暮らすことを考えて欲しい」

お願いしますと、兄貴に向かって、いや人生で初めて誰かに頭を下げた。


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