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キミのトナリ
I
―柊 side―

突き刺す胃の痛みが断続的に襲ってくる。
頭からつま先まで全身にずっしりと重くて、まるで泥の中に沈んでるみたいだ。
断片的に記憶があるような、それも夢なのか、もう長い間夢か現実か分からない空間を彷徨っている。
ピッピっと聞き慣れない電子音と慣れない匂いを感じて、虚ろな意識が段々はっきりしてくる。

「柊君、起きたかな?」

白衣姿の中年の男の人が僕に話しかけた。
指さえ動かすのも無理で、視線だけ送る。

「病院だよ分かる?…誰か本田先生呼んで」

本田先生…
そっか…、結局夏樹にも本田君にもハルさんにも迷惑かけちゃったんだ。
そっか、僕…生きてるんだ…
現実を知り、心に広がったのは安堵より絶望感。
どうして、僕は目を覚ましちゃったんだろう。
本当に泥の中に沈み込んでしまえば良かったのに。

「柊君、ハルだよ。覚えてるかな?」

返事の代わりに視線だけ送る。
小走りで慌てた様子で現れた白衣姿のハルさんは、初めて会った時と印象が違って、すごく凛々しく見えた。

「気分はどう?みんな心配してるよ。夏樹君も敬悟も朔弥君も。もうすぐ会えるからね」

「…メ…ダメ…、あぇ…ない…」

「…柊君」

怖い。
誰にも会いたくない。
僕はみんなに会っちゃダメなんだ!!
もう、誰かが傷つくのを、離れていくのを見たくないんだ。
急に感情が昂って涙が溢れ、呼吸するのも辛くて胸が苦しくなる。

「落ち着いて。ゆっくり吐いて、そう」

ハルさんが、背中をさすりながら優しく声をかけてくれる。
それに合わせて呼吸すると、少しづつ落ち着いてきて、同時に瞼が重くなって目を開けていられなくなった。

「もう少し眠ろうね。まだ痛むかな?」

ハルさんが指示をしているのがなんとなく分かって、
しばらくすると瞼が重くて開けていられなくなってきた。

「大丈夫だよ。眠るまでそばにいるからね」

小さな子をあやすみたいに背中をトントンしてくれる優しい手から伝わる温かさ。
ゆっくりなリズムに身を委ねて、深い深いところへ落ちていく。
思い浮かぶのは…

「…さくや」

朔弥に会いたい。
会いたい…でも、会えない。
会っちゃダメなんだ。


もうみんなに会わないから…
だからお願い。
誰も僕のせいで不幸にならないで。

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あきゅろす。
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