[携帯モード] [URL送信]

キミのトナリ
H
「朔ちゃんみーっけ」

顔を上げると、缶コーヒーを差し出している敬吾がいた。
ほら、と俺の手のひらに落としてきて仕方なくそれを受け取ると、満足そうに笑い俺の隣に座った。

「夏樹は?」

「ベッドで休んでる。隆哉さんと、あとハル兄も戻って来てくれたから」

「そうか」

まだ兄貴もいてくれてるのが今は心強い。

「お前は?大丈夫?」

やたら気が付くコイツのことだから、いつまでも戻らない俺を心配して迎えに来てくれたんだろう。

「…ああ」

本当は全然大丈夫なんかじゃない。
一瞬弱音を吐いてしまいそうになって黙っている隙に、敬吾が珍しく静かな口調で話し始めた。

「柊ちゃんさ、お前を守ろうとしたんだろうな」

「守る?」

守りたいのは俺の方だ。
俺は、そんなことされなくても…

「今まで散々嫌なことされて、その度に我慢して全て飲み込んで頑張って耐えて。けど今までのこと以上に、お前と離れることは、限界超えるぐらい柊ちゃんにとっても辛いことなんだよ。それでもお前を守りたかったから受け入れたんだろうなって」

だとしても…

「俺は、絶対柊から離れない!」

真っ直ぐ敬吾を見つめる。
だよな!と安心したと笑って返された。

「…なんかやるせないっていうか。さっきの夏樹の話聞いて、胸が張り裂けそうだったよ。ああ見えて夏樹もいろいろ抱えてるから。柊ちゃんと夏樹って時々入り込めない2人だけの雰囲気の時あるじゃん。ただ仲がいいだけかと思ってたけど、俺らが想像できないぐらい、たくさんお互いを守りながら生きてきたんだろうなって。2人でいたから頑張れたんだろうな。すごいよな。だからさ、俺は柊ちゃんにものすごく感謝してる。だって夏樹と出会えたのは、柊ちゃんの頑張りのおかげじゃん」

「夏樹にもな」

それからお前にもと言いかけてやめた。
きっとらしくないと気持ち悪がられるだろうから。

「それ本人に言ってやって!」

「嫌だね」

普段通りの会話にホッとする。
敬吾の言葉でモヤモヤしていた気持ちが少し晴れて、思いもよらない柊の思いにも気付けるなんて。
やっぱり、敬吾がいてくれて良かった。
もう空が明るくなってきていた。
長い間降り続いていた雨はすっかり上がり、晴れて今日は暑くなりそうだ。
敬吾と2人で戻ると、夏樹も落ち着きを取り戻していて、兄貴と話をしている様子だった。

「戻ったか。じゃあ俺は帰るな」

一睡もしないままこれから仕事に行くんだろう。
さすがに申し訳なく思い謝ると、頭を俺の頭をクシャクシャと撫でて、部屋から出て行った。

「お前の兄さんカッコいいな」

一体さっきどんな話をしてたんだかしらねーけど、浮かれた声はめったに他人を褒めない夏樹のものだった。
まあそうなんだよ。
昔からそうだった。
なんだかんだ兄貴はこういう時に頼れて、常に冷静で、周りをよく見ていて、悔しいけど余裕があるんだよ。
だから、俺は一生かかっても兄貴を超えられないと思っている。
そんな欲はもともとないが、せめて兄貴に認められる奴にはなりたいとは思っている。

それから、柊にも。
ちゃんと安心して頼ってもらえるように、甘えてもらえるように、守るだなんて思わせて辛い思いをさせてしまわないように。
柊を幸せにするためには、どんなことがあっても動じないぐらいに俺が強くならないとダメなんだ。
だから、この先の将来をどうするのか、俺は真剣に考えることにした。

[前へ][次へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!