キミのトナリ
E
―朔弥 side―
「…もしもし柊が倒れた。ハルさんに連絡して、今敬吾んちの病院。」
何て言って電話を切ったのか覚えていない。
珍しく夏樹の声が震えていた。
強気なアイツが動揺してるぐらい、柊の状態は悪いってことか?
慌てて階段を降りると電話中の兄貴と目が合う。
「行くぞ!」
きっと電話の相手はハルさんだ。
すでに状況を把握しているらしく、すぐに兄貴が車を出してくれ、病院へ向かった。
「2人が家に行った時、血吐いて倒れたらしい。今検査に入ったところだって」
血って…まさか、そんなに悪いのか?
やっぱり無理させてたのか?
俺と一緒の時は、飯もちゃんと食ってたし、よく笑ってたし元気だった。
今日は敬吾と夏樹が来るって喜んでて。
そうか、だからあの2人が柊を見つけてくれたのか。
とにかく無事でいて欲しいと願いながら、見つけたのが、今側にいられない自分に後悔して、震えがくるほど怒りがこみ上げてくる。
「クソッ!」
どこにもぶつけられない感情を、握った拳で自分の太ももに何度も振り下ろす。
その間、兄貴は諭したり、叱ったりせず静かに黙認してくれていた。
「なぁ、何でアイツを1人にしたんだよ!」
病院に着くなり、夏樹に胸ぐらをつかまれ、痛い言葉をぶつけられる。
「夏樹それはっ」
「お前は黙ってろ!」
とにかく今は落ち着くようにと敬吾に促され、肩を抱かれながら夏樹が真後ろのソファーに崩れるように沈んでいく。
頭を抱え、肩を震わせて泣き出す。
「クソッ!…俺だって分かってるよ。悪いのはお前じゃないって。あのババアだって…。けど、…何で柊が、…なんで…柊ばっか…」
何で柊ばっかり。
俺もそう思ってるよ。
「…後悔してる」
あのまま俺が部屋に残っていたら、柊を守れたかもしれない。
後悔しかなかった。
けど、本当に俺が守れたか?
今の俺に、それが出来たのか?
「隆哉」
張り詰めた空気を換えるように、広い廊下の向こうから、白衣姿のハルさんが颯爽と現れた。
『心療内科 精神科 本田 春人』
白衣姿と胸にある名札で、本当にハルさんは医者だったんだと思った。
「連絡ありがとな」
「2人ともすぐ来れて良かった」
一瞬だけお互い愛おしそうに絡んだ視線に気付き、この2人にも迷惑をかけている事に申し訳なく思った。
「みんなこっちの部屋で話そうか」
ハルさんが、どうぞとドアをスライドさせた場所は、すぐ側のミーティングルームと書かれた部屋。
楕円形の大きなテーブルに囲むように置かれた椅子にそれぞれが座った。
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