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キミのトナリ
D
―柊 side―


「…ぅ…、おい柊!しっかりしろ!!」

はっきりしない意識の中、誰かに頬を叩かれて名前を呼ばれてるのが分かった。

「…だれ?」

「俺!夏樹!!分かるか?」

夏樹?
ゆっくり瞼を開けると、確かに泣きそうな顔をした夏樹が見えた。

「…なん…で?」

痛みのせいか、意識がぼんやりしていてふわふわしてる。
これは夢の中なのかな?

「ゲーム借りに来たんだよ。何度連絡しても出ないから来てみたら鍵空いてるし、入ったら倒れてるし。」

そっか、そういえば昨日そんなメールしてたっけ。
本田君とゲームしたいとか、そんなだったかな?
その時朔弥とみんなでやれたら楽しそうだなぁって思って。
ちょっと言ってみたら、朔弥がたまにはいいんじゃねーのって言ってくれて、いつもみたいにふわっと笑って僕の頭を優しく撫でてくれたんだ。
なんだか、ずっと前の出来事みたいだ。

「体熱いな。どうした?アイツは?」

「…ああ、…母さんが来て、帰って…もら…」

頭がボーッとして言葉が上手く繋がらない。
母と聞いて、あからさまに夏樹の表情が険しくなる。
あっ、そうだった。
夏樹は母さんのこと嫌いだったっけ。
夏樹に背中から支えられたままなんとか上半身だけ起き上がることが出来たけど、また急に吐き気が来て、今度は間に合わず我慢できずにその場で嘔吐してしまう。

「大丈夫じゃなっ…これ、血か?」

夏樹の声が震えてる。
さっきトイレで吐いた時に少し混じってた赤いのも、やっぱり血だったんだ。

「敬吾!敬吾、柊が!!」

ドアの外で待っていたらしい本田君は、夏樹の声で慌てて部屋に入って来た。

「柊ちゃん分かる?夏樹、横向きに寝かせてあげて。」

僕の現状に驚きながらも、すごく冷静に様子を見てくれているのを薄い意識の中で何となく感じる。
混乱して夏樹が泣き出しても、静かな声で落ち着かせたり、こんなこと夏樹に出来るのは、きっと本田君しかいないね。

「今救急車呼ぶから。」

まって!そんなことされたらあの人に何て言われるか。

「ダメ…きゅう…しゃ、ダメ。」

残りの力を振り絞って本田君の腕を掴む。

「柊!!」

「…ハル兄に電話してみる。」

そう聞いて安心したからか全身の力が抜けてしまう。
どうしよう。
朔弥だけじゃなくて、夏樹や本田君、それに本田君のお兄さんのハルさんにまで迷惑かけちゃう。
もし、母にこの事が、みんなのことが知られたら、きっと酷いことされちゃう。
あの人さえ来なければ、今頃みんなで楽しくゲームしてたのに。



あの人さえ、いなければ…。
そうじゃない。
この元凶は、…僕なんだ。


だんだんと意識が遠くなっていく。
すぐ近くで夏樹が泣きながら名前を呼んでくれているのに、僕は返すことすら出来なかった。

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あきゅろす。
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