[携帯モード] [URL送信]

キミのトナリ
B
「まあ、お前にしては上出来なんじゃねーの?」

話を全て聞き終わった兄貴から出たのは、あまりに予想外の言葉で思わず顔を見上げた。

「自分が無力だって自覚あるんだし。今はそれでいいんだよ。たかが高校生のガキなんだから。」

一瞬褒められたかと思ったら容赦なく追い討ちをかけられ、余計凹むわ。
言い返せない悔しさなのか、何なのか分からないが、とにかくめちゃくちゃな心境だ。
2本目のタバコに火をつけた兄貴を凝視出来なくなって、堪らずフーと吐き出された煙の行方を追いかけ始めた。

「でもな、そのたかが高校生のガキのお前にしか出来ないことだってあるんだよ。」

俺にしか、出来ないこと…。

「今はそれをやればいい。他のことは案外この先どうにでもなるもんなんだよ。あんま先ばっか考えてると身動き取れなくなって、結構何も出来なくなるからな。」

悟りでも開いてるのかと思う程的確な意見は、混乱した俺の頭の中にでも、スーっと入って来て不思議と理解してしまう。

「もし自分でどうにも出来ない時は、周りにいる大人を頼れ。お前にはいるだろ?そいう大人が。」

「そうそう!なんだかんだ隆兄は朔ちゃんのことが可愛いんだもんねー!!」

「まあな。」

やっぱり兄貴には敵わないと思った。
親父が亡くなり、たかが高校生のガキだった兄貴は、この家を守る為に、今の俺よりずっと大人にならなきゃいけなかったはずだ。
その事すら、俺は今まで考えたこともなかった。

「分かった。」

でもやっぱり悔しいのか、素直にありがとうなんて言えない。
不機嫌に返すのが精一杯だった。
それでも兄貴は満足そうに笑って、何年か振りにガシガシ俺の頭を乱暴に撫でた。
俺には、こうやって話を聞いてもらえて、いざという時に手を差し伸べてくれる存在がいる。
安心できる場所がある。

けど、柊にはそれがない。


あいつは、俺が想像すら出来ない苦しい時間をずっと独りでやり過ごして来たんだろう。
柊の深い孤独。
たまに見るあのぼんやり遠くを見つめる寂しいそうな虚な瞳を思い出して、苦しくて胸が張り裂けそうになる。
別れ際もそんな表情だった。


会いたい…。
声が聞きたい。
早く会って、思いきり強く抱きしめたい。


気になって仕方がない。
まだ母親と居ることも考え、とりあえずメールで様子を伺おうと、『大丈夫か?』と短いメッセージを送った。
自室に戻っても何もやる気が起きずにベッドに横になる。
白い天井を見つめてさっき兄貴に言われたことを頭の中で繰り返しながら、携帯を握ったまま返信が来るのをひたすら待った。

[前へ][次へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!